泳ぐ街
やくそくを交わしたはずの、小指が。
デリートされていたのは、たぶん、かれらの情報。媒体がイカレて、真夜中、信号機が狂ったみたいに、明滅をくりかえしている。映画館におきわすれてきた、甘やかな記憶の断片が、静寂に満ちたスクリーンを透かして、光るとき。ゆるされる気がする。あの夏。横たわる向日葵のすがたを、膝をついて眺めていた。蜃気楼の少女。ゆらゆらと、白いワンピース。わたしの瞳に、焼きつけるように、くっきりとした輪郭で存在していた。はんぶんねむっていた、向日葵。あ、夜空には、ジャンプをする、ザトウクジラ。からだのなかには、オートメーション化した、街。
刹那、きみと体温をかさねたはずの、小指が。
泳ぐ街