非日常10

シュールな思いで

思ひで

桜咲く放課後でした。
夕暮れに染まる校舎の影で私は告白しました。

私は、同じクラスの女の子を好いていました。
そこで忙しい乙女の時間を割いてもらい、野球部の金属音だけが残る閑散とした廊下に彼女を呼びました。
私は彼女は来ないものだと思っておりました。
私は告白という不安を抱えながら、その反面彼女が来なければこの不安から逃れられるという期待も抱いていたわけです。
故に、彼女がたったひとりで、そうひとりで現れたとき、私の不安が現実のものとして倍増され、私の世界観は彼女の出現によって崩れ去ったのです。
野球部の号令も、往来を走る車の音も、光も、においも、全ては溶けて消え去り、彼女が私の感じる五感の全てになりました。
世界が彼女のことだけしか見えない恐ろしいものになったのです。
さらには時間までも止まりました。
春風のあたたかさが私の心臓を気持ち悪くなぜているようで、急かしているようでもありました。
この世界には私一人しか彼女に対峙する者はいません。
もはや対峙なのです。私はそう思えてならなくなりました。
刹那に追われながら私は言葉を紡ぎ出そうと口を動かそうとしました。
何を言おうか。どういう展開になるのか考えられませんでした。
私は、はやくこの世界から脱け出したかったのです。
「以前から」
私が口を開いたときです。
彼女の言葉が私の言葉を遮りました。
「私の世界(ザ・ワールド)に入門してきただと!?」
彼女はひどく取り乱し。私も状況が飲み込めず固まってしまいました。
「磁石か。抜け目ないやつだ」
次に彼女はナイフを投げてきました。
来年の春、きれいな桜を咲かせるつもりでしょうか。
でも私は死にたくありません。
私はギルモア博士にもらった加速装置を使いナイフを避けきりました。
なるほど、世界(ザ・ワールド)とは時間を止める能力のことなのですね。
私はサイボーグ009のこと以外なにも知りませんし、知りたくもありません。
「僕はサイボーグなんだ」
私は私の知られてはいけない秘密を告白したのです。
すると、彼女は狂ったように
「ナチスの科学は世界一ィィィィ!」
といいながら、わずかに残っていた西陽にあたると灰になって溶けてしまいました。
結局彼女は私の003(フランソワーズ)ではなかったという訳ですね。

おしまい

非日常10

つづく

非日常10

告白系

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-12-19

Copyrighted
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