紫陽花の詩/新作短歌集
喜びの笑顔曇りてとどめなく生きるも辛き涙雨
世に生まれ母に抱かれる幼子の
髪に自然の洗礼の雨
世の動き穏やかならぬこの時期に
生まれしこの子の行く末いかに
見上げれば燕の夫婦も休みたり
共に息つく夕暮れの鐘
軒下の巣は眠れども真夜中に
泣くこの幼子の声は響きて
我が心受けとめる人あればこそ
なき母の身は辛きものかな
狭き巣に溢れんばかりに身を寄せて
眠る燕の家族愛しや
(2022/06/20)
空閉じて頬にぽつりと雨粒が
花も濡れ行く紫陽花の寺
風情をば味わうよりもまずパチリ
平成の世に絵筆はいらず
花の色 名も紫と思えども
時は移りてカラフルなこと
陽を避けて庭の片隅ひっそりと
咲く紫陽花の慎ましきかな
古き家の庭を動けぬ彼のひとは
日々耐え忍び雨に泣く花
西洋に渡り戻りて色さまざまに
名もアジサイと書き改めて
主なく置き捨てられし廃屋の
庭うめつくすアジサイの花
雨上がり 花に残りしひとしずく
あの日のきみの涙にも似て
門に入れば 風にそよぎて紫陽花が
ようおこしやすと 頭を垂れたり
浮気者 桜つつじと散らしつつ
梅雨には紫の花も泣かせて
幼き手 雨に垂れたる花手毬
笠を離れて そと触れにけり
紫陽花の葉にポーズとる蝸牛
梅鶯の隣のページ
ただ一人柱に依りて 何偲ぶ
佳人の先に紫陽花の雨
寂しさを抱きて逝きし主よと
雨に泣いてる紫の花
紫陽花の詩/新作短歌集