無関係の死


 けさ、珠のようなミッドナイト・ブルーを照りかえす、
 粋なスーツを着込んだ男、髪に艶やかなオイルが光り、
 洋行帰りの洒落者さながらのひと、すれ違いざま、
 ふっと ましろき気品を漂わす、死の香気を曳いたのです。

 そういえばかの青いろは、夜空に沈む湖のそれに似ていた、
 そういえばかの髪油には、無垢のレザーの拒絶が照っていた、
 わたしはかれの姿を背後に捜しましたが、しかしかれ、
 群衆の淵の裡に吸い込まれておりました。青い蝶がちらついて。

 ── 一人の自殺は事件だが、数千人の死は統計である。
 かれは統計という 硬い数字のうえに横たわり、いわく、
 わたしとは無関係。無関係の苦悩 うねり泳いで綾織って、

 綾織らざるいたみだけ、すっと瓶から毀れるのです、
 わたしはそれを指でぬぐって、音楽によって硬めましょう、
 海へ抛って鎮めもし、無関係で関係したい。ひと片恋で、両想えたい。

無関係の死

無関係の死

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-07

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