無関係の死
けさ、珠のようなミッドナイト・ブルーを照りかえす、
粋なスーツを着込んだ男、髪に艶やかなオイルが光り、
洋行帰りの洒落者さながらのひと、すれ違いざま、
ふっと ましろき気品を漂わす、死の香気を曳いたのです。
そういえばかの青いろは、夜空に沈む湖のそれに似ていた、
そういえばかの髪油には、無垢のレザーの拒絶が照っていた、
わたしはかれの姿を背後に捜しましたが、しかしかれ、
群衆の淵の裡に吸い込まれておりました。青い蝶がちらついて。
── 一人の自殺は事件だが、数千人の死は統計である。
かれは統計という 硬い数字のうえに横たわり、いわく、
わたしとは無関係。無関係の苦悩 うねり泳いで綾織って、
綾織らざるいたみだけ、すっと瓶から毀れるのです、
わたしはそれを指でぬぐって、音楽によって硬めましょう、
海へ抛って鎮めもし、無関係で関係したい。ひと片恋で、両想えたい。
無関係の死