叛逆

もう遅いよ、と女は嘲笑した。もう戻れないよ、そう言い残して息を引き取った。そうか、それならそれで構わないさ。

俺は全身の流血を気にしながら歩き始めた、本当はどこも流血なんてしていないのに。失った心臓のことを思った。俺の心臓は七つあったはずだ。もう一つしかない。

耳の奥で(こだま)がする。とりとめのない科白(せりふ)の反復。無意味な命令。俺の頭は狂っている、それは今に始まったことではない。

快楽を現実で得ようが夢で得ようが同じことだ。快楽主義とは刹那主義の換言にすぎない。

忘れるために覚えるのか、と自嘲した。それも耳底(じてい)で虚ろに響いた。

叛逆

叛逆

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-05

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