月齢 4.6

 ふたり。崩壊して、だいたいまんなかあたりでぽきりと折れたビルを見上げている。手をつないで、おわらない詩をうたっているあいだに、星はゆるやかな消滅を待つばかりで、あのこたちのまわりには、こころやさしいどうぶつたちだけがあつまっている。暗い夜に、ちいさなあかりを灯して、あしたをまつ人類。くうきをうしなった魚たちが、ぱしゃぱしゃとはねる、都会の釣り堀で、ただ憂うのは、わに。
 あのひと。東堂というひとが、わにのかたわらで、ひんやりとつめたいアスファルトをおもむろに、指で撫でている。ぼくは片隅で、ふるえているばかりだったアイスクリーム屋さんの幽霊といっしょに、わにと、東堂というひとの後ろ姿を、ぼんやりとながめていて、ときどき、発狂しそうなほど不快な、歪な音に、幽霊はおびえる。ひとのかたちをした、幽霊。半透明で、ひとの輪郭だけをもった、幽霊。あの釣り堀に、そういえば、めずらしい怪魚もいたらしいです。いまにもしゅるんと、消えてしまいそうな声で、幽霊はおしえてくれた。ぼくは、いままでにした恋の回数を、指折りかぞえて、ふいに、夜空の月をみる。

月齢 4.6

月齢 4.6

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-06-04

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