超短編大河小説『いやして剣』
堀川士朗です。久しぶりに作品を投稿致します。いやして剣!お楽しみに!
ゆめかうつつか、いやして剣!
超短編大河小説『いやして剣』
堀川士朗
ここは、アレな世界線……。
世界的演出家、品川由紀夫の葬式に集まった役者たちの中にカズオ石五郎がいた。
部屋の本の整理をしている。
どうやら、演劇界の巨匠品川由紀夫の葬式はカズオの実家でやるらしい。
カズオの部屋には品川が育て、今はテレビの向こうで活躍している俳優たちが多く集まっていた。
みんなきちんとした喪服を着ている。
カズオ石五郎は品川の葬式を知らなかったので普段着だった。パジャマみたいなのを着ていてちょっと恥ずかしい。
やがてどんどんやってくる弔問客の俳優たち。
みんな昼なお暗い真っ暗森の東武練馬方面から集まってきた。
品川と親交の深かった映画監督の割る津踊り之介さんや、イメチェンしたまま終わっちゃった女優さん、らうんめん待つ子さんの姿があった。
狭い部屋をなんとか広くしようと本の整理をするカズオ石五郎。
整理している本棚にはライトノベルの文庫本が多い事から、彼の読書家としての浅さがうかがい知れる。
葬式には『いやして剣』の開祖、後土場師匠も来ていた。
彼は品川由紀夫の舞台「品川マクヒス」で殺陣を担当していた。
……『いやして剣』。
癒して癒して、リラックスさせつつ相手を切り伏せる優しい口当たりの剣筋だ。
いやして剣か。いつか習いたいものだなあとカズオは改めて思った。
あと、その舞台で衣装を担当していたゲーックエックエックエックエックエッ・ブエグエ女史がいた。
口角泡を飛ばして熱弁を奮っているが、何を言ってるかは全く耳に届かないし、彼女は警官殺しで一度収監されている。
カズオの苦手な百々ケ峰餅々と石綿工事と長良川肝吸と府津澤フッツとヒロシひろしとジャパ雪行き子と大矢田豚耳とゴム林しげると意外亭ストレスとクエン酸足らんちゅうの監督のグループがいた。
品川カンパニーの面々だ。
外部から品川の芝居に出演していたカズオの演技に、事ある毎に難癖をつけていた連中だ。
彼らはみな喪服を着て、時間潰しのため、一本のうまい棒を大事そうに回し食いしていた。
あさましい!
カズオは不快感を覚えた。
あと、部屋にはなぜかワイバーンみたいにデカい全長三メートルの鳩がいた。
二匹のつがいだった。
こどもを産むかもしれない。
そんな事もあり、部屋が非常に窮屈(せま)く感ぜられた。
俳優の竹之内圧縮。タバコを吸わない彼がなぜかこの日ばかりは故人を偲ぶかのようにタバコを吸い、部屋の畳に燃えた吸殻をこねくりつけて火を消していた。
「やめてください!そんなことは。ここは僕のうちです!火事になります!ヤメテ!」
と、カズオが強くそう言うと、竹之内圧縮は大人しくなってその名の通り圧縮して犬に変身した。
雑種の小型犬だ。
自分の喪服にくるまれてぷるぷる震えている。
何でもありだ。
ここは、アレな世界線だからな。
アレだからな。
単純に、夢だからな。
夢分析シリーズの、スピンオフ作品だからな。
ネット情報で、生け贄を四体捧げると品川由紀夫は生き返るらしい。
悩むカズオ石五郎。
どうするか。
捧げるか。
もう一度品川さんの舞台に立ちたいしな。
ただ、問題はこの参列者の中の誰を生け贄にするかだ。
台所には包丁が静かに置いてある。
やっと、本の整理が終わった。
昼時となった。
陰鬱な雰囲気に包まれた部屋を離れ、一階に降りる。
自宅の一階駐車場にはクリスピーかけ飯の屋台が出来ていた。
大盛況だ。
ごった返している。
一杯特大で五百円。
香典を集めるために俳優の屋敷田ホイホイが始めた店だ。
屋敷田は貧乏だ。
俳優だけじゃ食えないので普段はホテルの宴会の給仕のバイトをしている。
彼は『蓄膿昇龍向上委員会』というマルチ商法に入会している。
着物を着てちょんまげのカツラをかぶり、大衆演劇のメイクをしている屋敷田ホイホイ。
慣れた手付きで出汁とかえしを煮て、大量のそばを茹でている。
いやそれは良いんだけど。営業許可ちゃんと取ってる?ここ僕のうちなんだけど、とカズオは思った。
腹が減っている。
屋敷田に五百円を払い、特大のクリスピーかけ飯を長テーブルで食べるカズオ。
初めて食う食い物だ。やり方がわからない。
分からないなりに、ドッサリと二種類の薬味を入れてそばとご飯とクリスピーななにかをかけ汁に入れて軽くかき混ぜる。
さて食べようとしたら隣に座っていたむくつけき男が勝手にカズオのクリスピーかけ飯を食ってしまう。
熱かったのか汗をかきかき、フウフウ言いながら食っている。
カズオは怒らない。
「構わないよ。コ○キに呉れてやったんだ」
それを聞いたむくつけき男は嫌がらせにカズオのほほに楊枝をソフトに刺す。
今度はさすがに怒ったカズオが容赦なく男の額に楊枝を刺した。
3センチズブズブと突き刺したところで死んだむくつけき男は天然痘流の剣の使い手だった。
「あーあーこりゃ天然痘流が黙っちゃいないぜ」
「胃の中のおかず、大腸を知らずとはこの事だ」
「やんややんや」
「よもやよもやだ」
などと、夢特有の、顔の形が全くはっきりしないモブの客たちがはやし立てる。
天然痘流と対決となる。
しかしカズオ石五郎は剣の経験はない。
二階の自分の部屋に戻り、葬式が始まるのを今か今かと待っている後土場師匠にお願いする。
「後土場師匠、僕に、僕に、いやして剣を伝授して下さい!」
かくして、『いやして剣』を習う事になったカズオ。
対決の日は近い!
この続きは2095年4月に執筆致します!
第三弾はタイムスリップして1983年12月に発表します!
お楽しみに!
未完
(2021年9月執筆)
超短編大河小説『いやして剣』
ご覧頂きありがとうございました。またよろしくお願いいたします。