三題噺「サボテン」「美女」「拳銃」

 砂漠のど真ん中にある町で、僕ら四人は一人の男の話を聞いていた。
「テキーラはサボテンからできている」
 男が語る。
「そして、この町の人間はテキーラが大好きだ」
 周りの男たちがうなずく。
「ところが、ここにはサボテンがあるがテキーラがない」
 つまり、とここで男は僕らを見渡してにやりと笑って言った。
「ここで俺たちがテキーラを造れば、億万長者になれるってわけよ!」
 途端に周りの三人が歓声を上げる。
「まあ、落ち着け。とりあえず新たなお宝を前にショットガンで乾杯だ!」
 ショットガンは拳銃の一種ではなく、男たちのいつもの乾杯方法だ。
 僕はジュースを持たされた。
「それじゃあ、俺たちの成功を願って!」
 各々が小さなグラスの口を掌で塞ぎ、同時にテーブルに叩きつける。
「「「「乾杯!!」」」」
 炭酸が弾けた酒を男たちは一気に飲み干した。

 バーの店主には、すぐに金が手に入るからと言って僕以外の四人は酒盛りを始めた。
「どうした坊主、楽しくねえか?」
 酔いの回った父親が僕に声をかけてきた。
「うん、どうしてみんながそんなに盛り上げっているのかがわからないんだ」
 それを聞くといかつい顔の男は大きな声で笑い出した。
「おい、お前ら! うちの坊主、俺たちが億万長者になるってまだ理解してねえみたいだぞ!」
 すると他の四人も僕に近づいてくるとからかうように口々に言った。
「俺はたくさんの車をコレクションするんだ!」
「俺はたくさんの美女をはべらせてウハウハしてやるぜ!」
「俺、この仕事が終わったら結婚するんだ。な?んてな!」
 男たちは酒臭い息を振りまきながら熱い思いを語っている。

 僕はそんな男たちを見ながら、
「テキーラの原材料はサボテンじゃないんだけどな」
 と呟いたが、その声は男たちの熱気にかき消された。

三題噺「サボテン」「美女」「拳銃」

三題噺「サボテン」「美女」「拳銃」

砂漠のど真ん中にある町で、僕ら四人は一人の男の話を聞いていた。 「テキーラはサボテンからできている」 男が語る。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-04-24

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