円か

 花を纏う。きみ。街から、春の残骸すら消え失せた、五月のおわりのこと。学校のプールが、空と融け合う頃にみる、まぼろしのなまえ。くじらといっしょに泳ぐ、あのこたちが、だれともつながっていないスマートフォンから送る、祈り。うつくしいかたちに切り取られて、どうか、すてられないように生きる、日々のなかで、あたたかいのはしろくまの、うでのなか。ゆりかご。
 わたしの部屋で、ひとり、花を編んでいる。きみ。他人をつめたいと思ったとき、すこしだけ、じぶんをみつめなおすことができる。わたしは、そんなに冷酷ではない、はずだと、まるいドーナツの輪郭を撫でて、安堵する。紅茶を淹れる。きみのには、牛乳をくわえる。しろくまは、春から、夏のかれに、いれかわる。本を一冊、よみおえるまでに、ひとつの夜をこえる。つぎの夜がくるまでに、きみは、花に埋もれる。

円か

円か

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-30

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