レノアの神殿

 月照る夜に壮麗に(かがや)く かのレノアよ… ぼくはわが胸中に睡る、
 隔てられた 銀と群青の暗みの風景に、淋しい神殿を建築したよ。
 虚無と非情と孤独の金属夢(きんぞくむ) それ骨組なしに、音楽・光で綾織らせ、
 虚空に盗んだ断末魔の火を放ち、霞の如く 茫洋な神殿が暗示された。

 想いかえせば玲瓏な 冷然と、素気ない美ばかりを蒐集する、
 死の清む燦き 月を透して憧れる、そんな少年であったよう。
 非情はちかと閃く銀の殴打のように美しく、虚無に孤独漂う夢想、
 それ唯一のわが寛ぎで、不条理に頭抑えられ、漸く湧くは生の意欲。

 レノア 君は誰だ、何処から来た、不可解、されば君、永遠の女性だ、
 つまりはぼくと無関係、きんと冷たく突き放す 蒼白の妖婦は月の光、
 嗚 月よ、貴女がぼくの女神であったか、神殿を司る絶対神は、貴女。

 想いかえせば独りぼっちの ぼく、きみばかりを書いていた、十二歳、
 かの時書いた詩、貴女に花を渡された──ぼくは甘えていたようだ。
 レノア 貴女に二つ名を付けよう、虚無に棲む詩人を炎やす、"理不尽"。

レノアの神殿

レノアの神殿

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-29

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