供物について

供物は、捧げられるものは弱い立場、欲望され強奪され捕食される

しかし捧げられる相手の欲望するものということは、相手が持たない、足りない、収容するに値する、価値があるということ

供物は捧げる者なくしてならない、しかし供物の美しさは捧げる者でなく捧げられたものにある

もっと言えば、捧げられるもの自身に選択の余地がないこと、疑念のないことが無垢の美しさ

欲望に対して差し出すか否かの選択があることが既に捧げる者の立場を有する、捧げ物を渡すその手は捧げられない

供物自身が捧げられることに苦痛を感じるのは拒み、葛藤の末に投身されたそれは無垢な美しさではなく別の美しさ、人間の良心が滴る煌めき

供物のありのまま全てが供物である供物

例えば肥え艶めくまま突然絞められた羊、瑞々しいまま刈り取られた花、何も知らぬまま眠る間に肉にされた旅人

無垢で美しい供物は石の台が見えない、その台上に既に寝かされているのだから、あるいは無垢の目隠しによって

価値あるゆえに供物台へ引かれることを被る
拒絶なしに被る、欠乏の補填のために連れてこられる無垢で美しい供物

美しい供物は優しさではない
優しさは自然に近いが痛みをこちら側にまだ残している
美しい供物自身に痛みはない、離れる部分なく全てが供物になるのだから

供物を見る心中に犠牲を認め止めない疚しさがある、捧げる者は捧げられたものを見送る、身代わりを見送る、疚しさに抗う道具として劣等感を利用せざるを得ない

決して捧げられない安全な立場から、良心の呵責に苛まれつつも弱者の嫉妬に似た感情で供物の価値の高さを悼み羨み、犠牲の納得を試みる

供物の価値に適うのはそれしかいなかったのだと、美しいから召し上げられたのだと、尊く気高い、だから犠牲に選ばれたのだと

これはあの人にしかできないのだ、善人だから搾取されているのだ、価値があるから所望され狙われ奪われるのだ、「その価値のない自分と違って」

顔を手で覆いつつ指間から見送るその価値のある供物に注がれる後ろめたい保身、羨望、見てはいけないものを見るような疚しさ!

やめてくれ!私にそれを見せるな!

供物について

供物について

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-05-28

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