寂れた商店街の一角で

出会い

目を覚ますと私は商店街の一つの店にいた。
どうしてこんな場所にいるのか、私はだれなのか、
浮かんだ疑問の答えは、一つも分からなかった。

見覚えがあるように思える商店街は、
しかし、どこで見たかを思い出せない。
辺りを見回しても、どこもかしこも閑散としていて、
やはり、思い出せない。しばらく歩いてみることにした。

…疲れた。歩き回ってみても、何一つ思い出せなかった。
しょうがないので、店の壁に寄りかかって、休憩していた。
この店もやっぱり、人ひとりとしていない。私を除いて。

と思ったけれど、足音がした。
幼い少女がとても軽快なステップで私に駆け寄ってくる。
怖いとは思わなかった。
少女があまりにも、無邪気な笑顔だったから。

少女は私に何も言わずに、一冊の本を渡してきた。
色んな疑問が浮かびすぎて、何も問えずに戸惑いながらもその本を受け取った。
(暇だし、いっか。)とその本を読み始めた。

本は、絵日記のようだった。
写真や絵が貼ってあって、読んでいてきっと楽しかった。

そろそろ読み終わる頃、少女がまた近づいてきた。
「面白かったよ」と本を返そうとしたが、それより先に早く何か私に見てほしいようで、少女は反対側の店を指さしてきた。

反対側の店はシャッターが閉まっていて、そこに大きくペンキで

「ありがと」

そう書かれていた。

「なんで」と声を発する前に、ハッと目が覚めた。

dream

あの子がまた来てくれた!
私は嬉しくて、つい足が弾む。

この寂れた世界で唯一遊びに来てくれる子。

今日こそ私の思いが伝わるといいな。
そう願って、また笑って本を渡す。
あの子が覚えていない、一緒に旅した私との思い出を。

彼女とは話すことはできない。
ここは夢の中だから。話そうとすればすぐに覚めてしまうんだ。


今日は読んでくれてる。
それだけでうれしい。
読んでくれない日もあったから。


…そろそろ夢から覚める時間だ。
最後に伝えなきゃ、ありがとうって。

私は拙い字でシャッターに描く。
あの子と話せなくてもこれなら…!
あなたに届きますように。

再び

私は、趣味で物語を作っていた。
ただ自分が描きたいものを、描いてそれで満足していた。

時々、できたものをネットにあげて感想をもらっていたこともあった。
しかし、いい意見が貰えないとき、そもそも読まれないなど、
いつからか、自己満足で終われなくなっていた。

「どうすれば、いいんだろう。」
そう考えこんで、そしてスランプに陥った。
いっそこのまま、辞めたほうがいいんじゃないかとも思った。


そんな日の夜、夢を見た。
いつか、寂れた商店街の夢。
今度は、記憶も夢だという自覚もあった。同じ夢を2度も見ることがあるんだな。
(そうだ、少女がいたはずだ。どこにいるんだろう?)
そう思いながら、辺りを見回す。

…あぁ、いた。
今度もまた、嬉しそうに私に近づいて、その手にはあの本が。

その本を見て、「えっ」と思わず声を上げる。
それは私が物語を書いているノートだった。
確かめるようにめくり続けていく。
(どうして、あなたが持っているの?)
そう問うことも、叶わず、少女は優しく微笑んで、
また、向かいのシャッターを指さす。
今度は、

「またね。」

目覚めて思う。
彼女は私の好奇心。
純粋に物語を作りたいと思う心。

私はこれまで彼女と物語を紡いできたのだ。
そして私はそれを見つけるために物語を創ってきたのだ。

彼女は夢でまた会いに来てくれる。
だから「またね」と

ーー私も逢いに行くよ。

寂れた商店街の一角で

寂れた商店街の一角で

実際見た夢から、私なりの解釈を。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-27

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  1. 出会い
  2. dream
  3. 再び