くつした

くつした

外反母趾のつま先を
白装束の足袋を履かせながら見て 触れた

海を渡り
馬車に乗り
木の根を拓いてきた その足は
白くて小さく
重なる指は 長い間窮屈にしていたのか
指に力を入れないと
きちんと履かせられなかった

ひんやりとした足の裏
私は初めて
しっかりと祖母の素足を見た気がする


静かな水面に漂う朝霧の様な祖父の瞳は
寡黙なまま私を認識しなくなった

ただ 華奢な白い手を私に差し出し
子牛の世話をしていた時の様に
何かを思いながら
祖父の手をさする私の手を見ていた

子牛の世話をサボりたくなる時は
黙って私の前に立ち 背を向けてしゃがむ
どうしたの?と声をかけても 返事をしてくれない
なのに 動こうともしない
手のひらをチラチラ振って
おんぶしてやるよ と伝えていた

祖父は 朝霧が晴れるように空へ旅立ち
今でも祖母と歩いているのかもしれない

手を繋ぎながら
おんぶしてやりながら

くつした

くつした

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-26

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