蒸発した緑の弔い

蒸発した緑の弔い

雪水 雪技

駄目

こうして紐を結ぶ
見様見真似で結ぶ
縦になる靴紐に
頭上からため息
別に靴が履ければそれでよかった
けれどもそれだけだと
駄目らしい

上手にやれという圧があった
それから一生懸命にやれという
努力してるところを見せないと
駄目らしい

不恰好でも自分らしく
不器用でも楽しく

嘘をつけ

純正

水槽に溜まるか
花瓶に溜まるか
どっちでも同じ
形を変えている
形を与えられている
どっちでも同じ

低いところへ高いところから
法則はいつもはたらいている

不純物の不が取れたなら
安心して飲めるのかな
いくらで安心を買うの

いつも同じ選択をして
変化を望んでいる瞳へ

小鳥

小鳥は季節の境目
行ったり来たり
落ち着きなく

あの子の手は
小鳥のように
まるいまま

空をつかむ

廊下

部屋が分かれている
それぞれの部屋には
それぞれの思い出が
寝息を立てている

起こしてはいけない気がした
懐かしさに泣くのはつらいから

戻れない場所を思って
それから泣くのは
とても口惜しい

そう思って
物音立てず
廊下を過ぎて

明日

夕陽の跡が残った夜に
何かを忘れて歩いている

冷たい空気が地面に寝転んで
廃ビルたちが身を寄せ合う

草木の中に街の跡がある
人の気配が夢を見ている

時計の針は曲がっている
昨日の教会のベルが鳴る

明日とは今日が滅んだ日だ
不謹慎に希望を抱いて眠る

霧雨

霧雨、森の迷い人

館の主人は
目隠しをして
楽器と戯れる

見ては いけない

見ては いけない

濃霧、森の迷い人

館の主人は
目隠しをして
楽器と戯れる

見ては いけない

見ては いけない

しどけない音

あどけない声

緑濃くなる 迷宮に贄

六道

死す不安かな
生く不安かな

今生、修羅も菩薩も私には不在也や

会えなかった 見えなかった 今生へ

薄皮の下 同じ血潮が流れている
名前の上 同じ姓を名乗り続けている

人の間 人でしかない 人の子の私

不安が浮かぶ曇りの本日へ
命の長さを問うものかと
だれが投げうるものかと

平等

百年残るものを
その先を生きるものを
なにもなくなっても
痕跡だけは置いて
ネックレスの宝石が風化しても
チェーンだけが宇宙を漂えば
物語は波紋になって
新しいゆらぎになる

信じた分だけ生まれる犠牲と命
平等過ぎて吐き気がする日々に
生きたいつかの現代

指導

脳の指令
およそ不合理
泣けよ頑張るな急げ焦るな信じろ考えろ動け休め死ぬな生きろ無理するな

毎秒思考はとめどなく
蛇口を開いたままみたいな
無駄になって排水溝に吸い込まれ

私の体はいつも取り残されている
肉体の持つ違和感についての答え
なるはやで、応答は無し、笑うしか、

西暦

モノリスの前で誓い合う
原始の思い出たちが弾けた

今日は破局しました
明日は成就します
今日は恋人でした
明日は友人です
今日は記念日でした
明日はありません

原石のまま終わりたかった宝石たち
ショーウィンドウの涙が煌めいた
みんな魅せられて殺到する

さようなら
三六五分の一

淡水

水につけすぎて
ふやけてしまった
画用紙を先生は呆れて見ています

私は水族館をつくりたいです
私も水に馴染みたいです
私も魚になりたいです

淡色過ぎた気持ちが伝わらない
絵の具のままじゃ伝わらない
何を描けばいいのでしょう

画用紙に落ちた涙には
誰も気が付きませんでした

人参

月は落ちて
街は壊滅
何匹もの兎が
地球を占拠する

地球の兎と和平を結ぶ
にんげんの消えた星で
にんじんの存続を騒ぐ

兎は銃を使えない
地球の兎は耳がいい
月の暮らしが恋しい

毎日同じ結論
にんじんが減る
兎は途方に暮れる

寂しくても死なない
お腹が空けば死んでしまう

事件

観察された幸せが
誰かの心を壊した
平和に生きていたら
いつのまにか加害者
不満だらけに生きて
ずっと被害者になる
名も無き事件が多発
みんな気づけば血塗れ
みんな当事者になって
解決を願いながら
誰かを許せないで
本当は殺意まみれ
本当は動機だらけ
作り込まれた平穏の中で

雨季

蒸された大気がのぼりたがる
停滞する道路の上で汗ばむ肌

熱気よ 冷たい雨よ 来たれ

もしも雨乞いが日常なら
今日はみんなで踊る日だ

かなしく くすぶる 大気が 惑う

雨は降らないまま

夕暮れは 何かに 滲ませられ

カット

心は褪せた思い出を追う
もう戻らないワンシーン

早送りで生きてきて
名場面も刹那のことで

シーソー

きみの誠意をぼくはしつこく待った
どっちが重いか競いあって
地球に空いたピアスホール

半熟

冷たい朝の空気
肺におくりこんで
今朝の落ち着きを
全身にめぐらせる

夢の名残りが心拍数をあげる
夢の感触が現実をあわくする

それは心地の良いことだ
まどろみと朝日は溶け合う

半熟の卵が皿の上で割られて
朝のやさしさが間もなく終わる

処理

大人しく流されても
結局息はつづかない

生きづらい、で片付けをはじめる
せんさい、で片付けをはじめる

また、なにも言えなくなる
名詞ひとつに、解決されて
また、世の中に飲み込まれ
私、という一人称は黙殺され

絶え間なく更新されるのは
鮮烈な苦しみであって、
単純化されるのは耐え難い

出口

終わる回廊
夢から出口
再生する皮膚
その下に夢の跡
所在不明の続き

朝の下になる
体から消える記憶

寂しさは居残りを続け
薄い青の空をうらめしげに見上げた

空耳

雨の音が聞こえる
何も降っていない
青空の向こうから
しとしとと音がする

空の夢か私の幻想か
わからないまま

蒸発した緑の弔い

蒸発した緑の弔い

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-26

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  1. 駄目
  2. 純正
  3. 小鳥
  4. 廊下
  5. 明日
  6. 霧雨
  7. 六道
  8. 平等
  9. 指導
  10. 西暦
  11. 淡水
  12. 人参
  13. 事件
  14. 雨季
  15. カット
  16. シーソー
  17. 半熟
  18. 処理
  19. 出口
  20. 空耳