仲夏

 ぬくもりをしらない、こども。だれかの瞳のなかで、揺らめいている、頽廃の記録。雨のにおいがして、二十四時の、きょうのおわりと、あしたのはじまりのはざまで、半透明な夢をみている。ニア。海底で、傍にいたのは、きみだけだった。
 コンビニで、アメリカンドッグを買っているあいだに、不知火が電話をしていた。コイビトに。わたしは、不知火に、コイビトなるものがいることに、ちょっとびっくりしていて、それは、不知火が、いつも、恋愛に興味がないようなふるまいを、しているから。それに、不知火って、じぶんのことは大好きで、他人はどうでもいいって感じの、ひとだから。コイビトって、どんなひと、とたずねると、不知火は、そもそも、ひとじゃないし、とか言って、ひとじゃないって、じゃあ、なに?、と思いながら、わたしは、ケチャップとマスタードの容器をプチっとして、アメリカンドッグのうえにたらした。
 誘蛾灯にさそわれて、しににくる虫を、かわいそうと思ったことがある。
 この時代、べつに、恋愛対象はひとだけではないでしょ、と素っ気なく答えて、不知火は、わたしがアメリカンドッグといっしょに買ったコーヒーを、勝手に開けて飲んでる。

仲夏

仲夏

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-25

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