春のおわり
夏がもう、すぐそこまできているから、つめたい肉にふれる。(なんの?)境界線のむこうで、きみたちが微笑っていて、ぼくは水槽のなかをスローモーションで泳ぐアロワナを眺めながら思考を、サイダーみたいにクリアにする。生からの手招き。みじかくなっていく夜を嘆くのは、まよなかのバケモノ。拡散されて、ただのうわさが、真実味を帯びて跋扈し、だれかをころしていく瞬間を、こわいと思って消した、SNSアカウント。絶対悪を決めたがる、群衆。集団的熱狂は凶器で、遠くにいるきみたちのまなざしだけが、救い。
かれと、手をつなぐ。
こわいものもすこしだけ、こわくなくなる。
蝉はまだ、土のなか。
よあけのバケモノが憂鬱そうに、よあけのうたをうたいはじめる。二十八時すぎに。
春のおわり