春のおわり

 夏がもう、すぐそこまできているから、つめたい肉にふれる。(なんの?)境界線のむこうで、きみたちが微笑(わら)っていて、ぼくは水槽のなかをスローモーションで泳ぐアロワナを眺めながら思考を、サイダーみたいにクリアにする。生からの手招き。みじかくなっていく夜を嘆くのは、まよなかのバケモノ。拡散されて、ただのうわさが、真実味を帯びて跋扈し、だれかをころしていく瞬間を、こわいと思って消した、SNSアカウント。絶対悪を決めたがる、群衆。集団的熱狂は凶器で、遠くにいるきみたちのまなざしだけが、救い。
 かれと、手をつなぐ。
 こわいものもすこしだけ、こわくなくなる。
 蝉はまだ、土のなか。
 よあけのバケモノが憂鬱そうに、よあけのうたをうたいはじめる。二十八時すぎに。

春のおわり

春のおわり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-22

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