不思議な事件
友人はやっと顔を上げ、すがるような目で私に助けを求めた。
「頼む。信じてほしい。俺があの子を殴ったというんだ。そんなことは決してしていない」
そう言って彼がちらちらと視線を向ける方を見やると、小さくて可愛らしい、いかにも正直そうで子供らしい少女が、母親らしき人物に抱かれながら涙をぬぐっていた。
「それを誰が言うんだ?」
「あの子自身だよ」
「あの子自身?」
「そうだ」
どうやら彼は、明らかに不利な状況へと追い詰められているようだった。その最も大きな要因は、彼が25歳の成人男性であったこと、そして相手が好印象な幼い少女であったことにあると思われた。さらにおそらくその母親であるだろう女性から強く抱きしめられ、二人そろって涙を流し合っている今、彼の立場は一層共感を得難い孤立したものとなった。しかし、私は彼が嘘つきだとは思わなかった。それは彼が友人であって、そんなことはしないと信じていたからではない。もっとずっと素朴な考えとして、彼は嘘をついていないと思ったからだった。けれど反対に少女が嘘つきだとも思わなかった。本当に純粋な思いから、彼は少女を殴っていないし、少女は彼から殴られたと私は信じていた。この矛盾した二つの事実が、一つの事実として重なり合って存在し得ると、私は信じ切っていたのだ。
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不思議な事件