統べる


統べる



統べることの土台に入る傷に触れ
その修復と、それに必要な時間を気にかける技師の呟きとその心情。計算。
幾度となく振るわれてきたその腕と、
木槌と
透明な目(まなこ)が、
悲観的な表現の中から、適切なものを選び取る。
もう、変換されて届く意味。



動く耳、とその意識。
瞬きは改行されて、空白を埋める為の意識を待っている。
海は、大好きな青い光景だから。
夜は、煌めく空の、深い怖さを知れるから。
そして
この部屋の中。
あり得る声を手で拾い、
共に在る、きみに訊く。
創っていたその手を止め、消灯時間をとうに過ぎた天井の、それぞれが開いているデバイスの真っ白な灯りだけが照らすいまを泳ぐ。問いはたった一度だけ。統べる者は待つばかり。



訪問者によって持ち込まれた、
真昼間の灰褐色に至るまで刻を流れた巻き貝の化石に、透明なグラスに注がれた
冷たい水が愛おしそうに、反射する。この季節。
まだ外は、
笑顔には
慣れなくて、憧れて、工夫を施す
知性と、
詰め襟の
金具の質に乗せる針。
モノクロで走り去る姿を認めて、逆巻きの



紙の上に連なる懐古を養う、
その指を止めた。



とん、とんと
椅子から滑り落ちそうになった毛布を受け止める、そのままの感性で両立し合う。技師の報告書からは目を上げ、指示を出して保留する諸々の作業。それらを観測していた認識が青いランプを点してここに、降りて来る。次第に探り合う、見つめ合う、答えを返して、提案して、し直して、その壁一面。名乗るからその者は、


凍らせた花を置き直す。
曇らせた一日を重ねる。
閉ざされた窓を下ろし
失われた輝きを侍らす。



かつて、とこの帳。



静かな、
この



点、
点と
水色の地図の上を歩く、足の親指から触れる、質量をもったこの存在感から最初に伝えられる統べるものの重み、そのほんのちょっとしたデータが波紋の形を任意に取り、広がっていき、底に沈んだ布地の上を通り過ぎて、ぶつかり、止まる。
きみには聴こえるその瞬間の、奇跡の様だと表されるフリクションが目の前のこの画面、それを何故欲しがるのかについて、ひと枡マス明けて、この意思をもって話し出そうとしていたこの目、この瞬きを遮って、連なって、形状様々に、拘らずに埋められていく。自由で、綺麗で、等身大で



楽しそうに笑顔で、首を振って、拒む意思。
相槌と同意は
こうして
離れ難い価値を持つ、だから。



きみが創り
ぼくが調べる。



好きな、
言葉が、
技師が、正しく述べる傷というこの土台の変化に腰掛けて、呼び掛ける、スクリーンとパターン認識の掛け合わせ。幸福度のパラメーターに乗せる指を右に、左に動かしても変わらないその結果を参照して、再度呼ぶ。聴き耳を立てる。描き直したお皿を壊し、そこから咲いた花弁と、色彩と、破片の嘘偽りのない未来を思う。奇跡は起きないから奇跡、永遠に追い続けられる恋情。長い尾を振るう陶器の狐に導かれて、瞬きは二度、三度。華やかに、述べて、述べられて。



「統べるもの、ここに在らず。ただ」



ただ、
針を落として
気付くばかり。



アンモナイトな思考をして
時間を経て
大切に
大切に、見つけるばかり。



甘い味。
残された、方眼用紙に記された日付。きみが去った方向と、ぼくが歌うべきこの、



結実。

統べる

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-19

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