梅雨前線

 土のなかで、まっていて。蟲。それいがいの、生命と、生命だったものの、残骸を、慈しむのは、テトラ。ただ、やさしいだけじゃない、母なるあなた。アスファルトのすきまから、光。噎せ返るほどの、新緑のにおい。のどがいたくなるほど、叫んだ、あのこたちの典型的な、五月の発狂。
(いいよ)
 雨が降れば、きみは、髪をていねいにとかし、つめを丸くととのえ、血を吸ったあとみたいな真っ赤なくちびるで、微笑む。六月が、忌々しいのです。こわさないで、わたしの分身。機械のからだだけれど、ちゃんと、いきてるから。ゆるして、と乞う。みえない悪意に、屈しても、だいじょうぶ。七月は来る。

梅雨前線

梅雨前線

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted