私のミクロマン ②

第二章 オレンジ色の世界


「外因性精神障害、気質精神疾患、アリス症候群、統合失調症と……ふぅ〜ん……」

 いきなり机の横からノートの内容をつらつらっと読み上げられた。時刻は午前。教室の窓からは薄暑光が射し、昼休みまで後1限を残す緩やかな、そんな時分である。

「明美……」

 私は椅子に腰を掛けたままの姿勢で、ボンヤリと視線を動かす。

「友子、医学部でも受けるの?」

 明美は何処か不満気な面持ちで、唇を尖らせ、ゆるいカーブを描く前髪をふわふわさせながら感情を吐露する。教室には丁度、半分ほどの生徒が残っていて、各々が自由にお喋りなぞ花を咲かせ、浮かれていた。

「いや、ちょっと気になる症例がね〜…」

 私はいつもの生返事で返しつつも考える。【今】の会話は、果たして正常に成されたのだろうか?と。
 私が認識する世界の構図は、謂わば私の記憶から脳が判断した結果に過ぎず、他者と共通の概念だと担保するものではない。ともすれば自己の発信と、外からの問いをこうであると決めているのも私でしか有り得ず、その【私】自身が壊れていた場合、私が認識する世界と現実世界とは大きな齟齬が生じているとも――

「え~…やめてよぉ、洒落になンないからっ!」

カタカタカタッ

 天板の角に取り付き、小刻みに身体を揺すっては机の脚をカタカタいわせる明美の姿に、ほんの僅か、気持ちが戻った。
 私は未だ醒めぬ夢とうつつの境界で、ボンヤリとした意識を向けて思う。
 ――平坂明美。彼女とは初等部の頃から何かしらと縁が在った。とは言え、迷惑を掛けられた記憶しか無いのだが、傍目に見れば、こんな関係も友人として映るのだろうか?性格は人懐っこく、まさに子犬だった。この距離感を親睦と取るか 無礼と取るかで評価は2つに割れる。私が知る限りでも、面白いと評する生徒がいれば、鬱陶しいと毛嫌う生徒もおり、とどの詰まり毀誉褒貶の2面を持つ人物像なので在る。

(そう捉えると、私が見ている今の世界も、湖面に映った自身の思想と云うことも……)

 隙きあらば泥沼に足を突っ込んでいる病んだ思考を、耳元からの大きな声が再び引き戻した。

「ちょっとぉ!聞いてる?本気で心配になるよぉ〜」

ガタタタタタッツ

 流石にカタカタいわせ過ぎだな。と、机の天板に両手を突き、フレームを両足で踏み締めて揺れを止める。こうゆう小五月蝿い音が耳障りだと思う生徒は意外に多く、明美は基本的に馬鹿なので気が回らない。個人の事情と周囲に対する配慮とは断固切り分けるべき事だ。この程度の判断は辛うじて効いている。

「だってぇ〜今日の友子、すっごい変っだよぅ?頭ボッサボサで鞄も持たずに登校してぇ〜おまけに素足だしぃ〜…」

 どうやら何時もの名調子が始まった。それどころでは無いのだが、ここは適当に流すしかない。

「うん……」

「今は上履きだけどぉ~サンダルで登校したんでしょ〜?風紀の娘から聞いたよ?面食らって注意出来なかったって、ちょっとした噂になってたよぉ~まぁ、あたしが釘刺しといたけどぉ~」

「うん……」

「それにノートにこんなこと書いて変なこと言ってぇ〜」

「うん……」

「まったく!長年、友子と連れ添った身としては心配にもなるよっ!」

「うん……で、お昼のお金貸して欲しいんだけど……」

 出来ればここで切り上げて貰いたかった。朝食抜きで空腹なのだが、彼女の元気はややもすると過剰摂取になる。

「え?もしかしてお財布も無いの?なんで?どうして?」

 無論、今朝の事だけは話せない。信じる信じないの問題では無く、この事あれかし感が恐ろしいのだ。世の取り沙汰は人に任せよとは言うが、私はまっぴら後免であり、平穏を乱す要素は事前に摘み取るが旨である。

(…………)

 あの後、洗面所から勝手口を抜けて学校まで直行したのだが、おかげでカバンも靴も靴下も未回収で現場に放置だ。まぁ、教科書等は学校の備置がある。問題ない。ノートも生徒会の備品庫から1冊だけ拝借させてもらった。購買部にて、ツケで買うよりも良い選択だ。村沢女史に気付かれぬよう明日にでも同等品を補充すれば、変に気を揉まれる心配も無いだろう。靴と靴下は……まぁ、少し不良っぽく見られるかもだが、聞かれれば側溝に嵌ったとでも言えば何とか誤魔化せる。そして眼鏡。これだけは代替が利かず、無いと授業も碌に受けられない。あの時、咄嗟にコレを掛けた自分の判断を手放しで褒めたい気分だ。

「もぉ~!次期・生徒会長がそれじゃ困るでしょ?」

ダダダダダ

 故意か過失か、はたまた返事を返さない事への抗議なのか、明美は天板の角に掴まったままの姿勢でフレームの端に両足を乗せ、激しく肢体を揺すり始めた。コレには流石に穏やかでは居られない。こうゆう衝動的な行動が本来無用の敵を作っている自覚が無いのかと憤って来る。

「明美……私、一度でも立候補するとか言ったっけ?」

 すると明美は大きな瞳を更にまんまるに見開き、上半身を乗り出して、こう返してきた。

「え~っ?だって……そんなの みんな納得しないよ?2年で副会長なんだから、来年、谷口会長が卒業したら繰り上げで友子が──」

 余りの根拠もへったくれも無いへ理屈に唖然と成ってしまう。期待する結果から逆算しての話しなのか、それとも馬鹿だから学校選挙の制度そのものを理解していないのか、そもそも一体どこから出てきたのだ?繰り上げとは……谷口先輩は卒業にあたって退任するのであって、途中辞任するわけでも無いのに、なぜ繰り上げなのだ。

「あ、あのね、明美……」

 私は間違った噂が流れやしないかと内心ヒヤヒヤ状態で、周りの動向に注意しながら声を潜めて返してやる。

「ウチの学校はいつから選任制になったのよ?立候補の権利は3年に進級した役員全員が対象で、決めるのは【生徒会以外】の全校生徒でしょ、そこで選ばれた候補者が生徒の代表としての任を努め果たすのよ、まるで縁故があるみたいな含みの言い回しは止めなさいよ」

 私と明美が幼馴染みだと知っている生徒も、クラス内には少なからず居るのだ。妙に信憑性の在る噂を流布されては、溜まったものじゃない。

「だったら尚更、友子だよっ!みんな言ってるもん!谷口会長はお飾りだって、実質、生徒会を仕切ってるのは副会長の友子の方だって――」

 こ、コイツは〜と頭が熱くなった。私の心配も何処吹く風で、妄論をペラペラと宣い始めるとは、もう流石に看過できる状況ではない。

「誰?一体誰?明美の言うみんなって具体的に誰の事?そういう曖昧な風評に踊らされる人間って信用を失うんじゃないの?」

静かにドスを効かせた声に、明美はビクンと背筋を震わせ、怯えた仔犬の表情を見せる。

「え、あッ!ちが……ゴメン……」

 今朝の事もあってか、久し振りに生の感情を出してしまった。自己嫌悪だ。それに次期生徒会の人選については色々と思うところがあり、触れてほしくないと言うのもあった。確かに明美の言葉どうりで、【立候補】すれば、既定の様に次期生徒会長に選ばれるだろう。自惚れでは無く、私には人望が在る。なぜ言い切れるのかと云えば、意図して築き上げてきたからだ。其れも此れも、すべては穏やかな日々を護る為だ。
 役職とは上がれば上がる程と重責化し、しがらみが増し、何時しか身動きすら取れなくなる呪いの類いに他ならない。志を放棄し、利権を貪る為の肩書きならば安穏だろうが、もしも真実を追究しようものなら間違いなく四面楚歌だ。
 では如何様にと問われたとて、このままでとしか返答出来ない自分が居る。それが私と言う人間の剥き出しの本音に他ならない。矢面に立つ勇気が無い。決議への批判は、遍くして会長が一身にかぶってくれるし、此方は起案をポイと上げて是々非々の決定を会長に促すだけで良いのだから気楽なものだ。結局は、涼しい所から意見だけを汲み取って貰おうとゆう甘えた腹積もりでいる訳なのだ。
 自らを現会長の立ち位置に重ねると、気分が鬱になる。情けない事だが、私は明美が考えるほど清廉な人間では無いのだ。
 
「こ、こっちこそ、御免、なんか少し、言い過ぎたみたいで……」

 急に申し訳なくなって謝った。感情の起伏がコントロール出来なくなっている。全部、あの【小さいおじさん】の所為だ。

「う、うん、あっ、始業チャイム──」

キーンコーンカーンコーン

 その時、小気味良いテンポで休みの終わりを告げる【ウェストミンスターの鐘】のメロディーが校内に響き渡った。

キーンコーンガラガラ‥ガララ‥

(えっ?)

「友子ぉ〜…なぁに、いま気持ち悪い音〜…聞こえたよね?」

 確かに聴こえた。神経を逆なでする様な嫌な音だった。

「ええ……たぶん機械の故障じゃないかしら?」

コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥

 それは気付くとループになり始めている。

コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「ねぇ!友子ぉ〜チャイムの機械ってどこにあるのぉ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 両耳を手のひらで押さえ、身を低くして明美が尋ねる。私はそれに関して知り得る知識を答えた。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「うちの学校の場合、プログラムの管理場所は放送準備室だけど……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「だったらぁ、このクラスに放送部の子とか居ないのぉ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「放送部員は居ないわ」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「じゃあぁ、隣のクラスはぁ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「言い方が悪かったみたいね、今は放送部自体が存在しないのよ」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「えぇ~っ!なンで無いのぉ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「仕方無いでしょ、色々やらかした部を存続させる訳には行かないし……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「で、でもっ、今でも普通に校内放送かかってるよぉ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「事件に無関係だった新入生を一人、同好会の体で活動させてるのよ、行事の際に必ず必要になるから、でも、まだ数ヶ月だし、機材の故障に対応出来るのかは分からないわ」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「いやーっ!頭痛いよぉ!もぉやだーっ!」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 ハタと見遣ると、生徒は一様に頭を抱えて机や床に突っ伏し、外の廊下を教員達が忙しなく往來する異常事態へと変貌していた。なにやら大声で指示を出してはいるものの、廊下でパニックを起こす生徒達の耳にはまるで届いていない様子だ。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
(え……何、これ?)
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 そう思っていると突如、教員の一人がドアを開け、こちらに向かって何度も口をパクパクとさせる。当然だが聴こえるワケも無く、これは出向いた方が早いのだろう。頭を抱えたまま私の袖をぎゅっと掴む明美の手をさらりと振りほどき、私は足早に教員の所まで移動した。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「三倉ぁ!ほ、放送部員は誰だぁ!」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 呆れ果てるとは、まさにこの事。よくよく見れば生活指導の教員で、処分された生徒の詳細すら把握していないと言うのだ。どうやらこの教員も明美と同レベルらしい。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥ 
「放送部は先月の問題行為で既に廃部です、部員の3名はまだ謹慎処分中ですが、それよりも放送機材なら顧問の先生がお詳しいかと思います、後は電源を落とす選択肢もありますが、駄目なら業者に連絡を入れるのが最善ではないかと……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「そ、そうかっ……そうだなっ!」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「と、ところで三倉ぁ!お前ぇ平気なのかぁ!」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 平気とは詰まり、この音に対してなのだろう。確かに酷い不協和音だとは思うが、果たして頭を抱えてうずくまってしまう程なのかは甚だ疑問でもある。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「ええ…まぁ、聞き取れる音の周波数には微妙な個人差があるそうですし、確かに耳障りでは在りますけど、私は――」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「と‥も‥こぉ…」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「えっ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 不意に背後に人の気配を感じ、振り向こうとした瞬間、左の二の腕に焼けるような鋭い痛みを感じた。

「あ、熱ッ!」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「…も‥こぉ……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「‥と‥も‥こおぉ~…」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「……あ、明美?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 今にも泣き出しそうな表情で立ち尽くす明美の右手には、工作用のカッターナイフがギュッと固く握られている。
 そう言えば午後に技術の授業が……なぞと考えつつ、押さえた二の腕からは、差し込む程の激痛と、大量の出血……

(──いや、意味が理解らない……)

 まさか掴んでいた手を無下に振り解いた行為に激昂して?それとも先の会話で強く叱咤された事に対する報復?いや違う。明美は馬鹿だが、そんなタイプの馬鹿では無い。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥

ギシッ
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ…

ギシッ

 周囲の雑音を消し去るほど鮮明に、明美の踏み出す足音だけが鈍く耳に届く。
 大粒の涙を湛えた、明美のすがり付く様な視線がジリジリと迫って来る。

(──悪夢だ)

 今朝の悪夢の続きが始まったのだ。
 上半身からサーっと血の気が失せてゆく。
 ジットリと嫌な汗が背筋を伝う。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「あ、明…美……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「‥も‥こぉ…」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
ガシッ
「あっ!」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
 にじり寄る明美からゆっくりと退く私の身体を、背後から得体の知れぬ荒々しい腕力が羽交い絞めにした。それは女子の力では到底抗えぬ膂力。まるで岩の塊に飲み込まれたかの様な暴圧が掛けられている。
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「み‥み‥く‥ららああ……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「せ、先生っ?」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「と‥も…こぉ……」
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
「あ、あはっ…あはは〜…」

──もう駄目だ、笑うしかない。
 眼鏡は要らなかった……こんなにも歪んだ世界を見せられる位いなら……意識が混濁する……
 映る景色は理解の範疇なぞ遥かに超え、この場に受け入れられる要素も須らく皆無で……
 四肢に力を入れる度、傷口がズクンズクンと激しく疼き、僅かな理性のカケラを残酷なまでに掻き立てる。

(──現実だ、これは現実……)

 せめて両目を閉じている間に全てが終ってくれるなら、それはそれで幸せかと思うや、身体が解を得たりと五感を遮断させてゆくのが理解る。

(お父さん……お母さん… ‥  ‥)

 ぼんやりと薄れ行く意識の片隅で、声を聞いた気がした。

『──けない!遮断するんだ。』
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
『奴等の居場所が判明した。』
ドルルルル~ッキッガッ!
『屋上の配電盤だ!』
コーンガラガラ‥ゴーンガラガラ‥ガララ‥
『そこから例の発狂電波を送っている。』
ドヒューン!バシバシッ!
『良し。行くぞ!』
バシュン!
ボンッ!
キュウルキュウルキュウル…

(……だ……れ?…… ‥ ‥  )

────… ‥



 ──まぶたを開くと 教室の窓からは煌々と夕焼けが差し込んでいた。
 辺りは一面、鮮やかなオレンジ色だ。
 すぐ足元には教員と明美がぐったりと倒れている。
 恐々と二の腕を擦ってみた。
 二の腕に出血の痕跡は残っていたが、不思議な事に傷口らしき箇所がどこにも見当たらない。

(――終わった?……ふふっ……)

 まさかの防衛機制で、自ら脳の電源を切ったと言うのか?ともすれば、人間は如何に器用な生き物なのかと、乾いた笑いも知らずに浮かぶ。
 
「……明美」

 横たわる明美の直ぐそばに腰を下ろし、呼吸に合わせ微かに上下する腹部をやさしく擦ってみると、心地のよい感触と温もりが手の平を通して伝わってくる。
 
「……いつも、自分の事ばっかりで、ごめんね……明日からは、もっと、がんばるから……」

 自然と、自分の弱さを吐露していた。
 遠くでサイレンの音が聞こえる。 
 安堵した私は、薄れ行く意識に任せ、明美の身体に重なりつつ深い眠りを受け入れた。
 世界がオレンジ色に包まれているのを感じながら……

私のミクロマン ②

私のミクロマン ②

じゅうぞうです。よろしくお願いします。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work