五月のエンゼルフィッシュ
地下鉄で、ゆられているあいだに、なにげなくみていた、広告の、文字を。ふいに思い出す、月曜日の夜に、まだ、きみが、あの場所で眠っている。透明なアクリルケースのなか。まるで、展示品みたいな、存在。せんぱいが、わたしのために書いてくれた、詩を、しずかによみあげて、深海の暗さを知るまえに、みだれた制服のリボンを、ていねいになおす。じとっとした空気の、ホーム。十四才のころ、まいにち買っていた自動販売機の甘いジュースを、いつのまにか買わなくなったなぁと思いながら、改札に向かうひとの流れに身を任せ、点字ブロックを踏まないように歩く。文学部は、わたしがいなくなって、だれも、あたらしいひとが入らなかったら、なくなるんです。せんぱいが、卒業してしまうから。
ゆら
ゆら
もう、さみしい。
五月のエンゼルフィッシュ