老人たちの散歩
男が道を歩いていると、前方から犬を連れた老人がやってきた。よく見ると、その後ろにもまた別の老人と犬とが連なって歩いている。二人の老人と二匹の犬が、一列に、時折その順番を変えながら、ゆっくりとこちらに近づいてきていた。犬は二匹とも乾いた土に夢中で、老人はその様子をみるために下を向いている。それはそこの道がやや上り坂であったことも関係しているかもしれない。男とその一行の距離は徐々に縮んでいくものの、老人がこちらに気づく気配はない。その距離があと一歩となったとき、手前にいた老人がようやくこちらの存在に気が付いた。
彼はハッと顔を上げ、「どうも、すみません」と呟いた。
男は軽く会釈をし、「どちらへ?」と声を掛けた。
「目的地などありませんよ。なにせ、私達には役割というものがはっきりしないもんで」老人は笑いながら言った。「その綺麗なスーツが羨ましい。私達にも何か服でもあればいいんですが」
「私だってはっきりしませんよ。このスーツを今ここで泥まみれにすれば、私の役割なんてたちまち変わってしまうんだから」
男がそう言うと、老人たちは微笑し、散歩の続きをはじめた。男もまた歩き出し、いや、そうでもないかと、少し反省した。
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老人たちの散歩