右左

 大量生産されてるよね。人類も、そういうふうにならなければいいと思う。だれかの思惑のまま、うみおとされるばかりなのは、やっぱり。ひどいよ。
 右近がそう云うと、左近は、右近はちょっと、とあるジャンルに特化した小説を読みすぎなのだと呆れ、ぼくは、まぁ、右近の愁いはなんとなくわからないでもない、と思いながら、夜明けのホットケーキをたべてる。バターはちいさめのキューブ。メープルシロップではなく、はちみつ。ふたごは、ご両親でもまちがえるほどに、瓜二つであるというのに、なぜか、ぼくにはわかるので、兄の右近と、弟の左近のちがいは、でも、もうしわけないけれど、せつめいするのはむずかしい。コーヒーをのみながら、たばこを吸うのが、右近で、ナポリタンをたべながら、ミルクをのむのが、左近。未来のことを想像して、しかも悪い方向に、それで悩んでいるのが右近ならば、あしたはあしたの風が吹くという調子で、きょうを生きているのが、左近。
 森が鳴いているようにきこえるのは、れいの、アルビノのくまのせいであり、彼に付き従っている動物たちが、夜ごと、うたをうたっているからだ。かなしいうた、だと思う。おそらく。
 街のはんぶんが、ずっと、停電している。
 電力使用過多。
 もうはんぶんに、にんげんがあつまってきてしまったから、そのうち、きっと、おなじことが起こるだろう。
 紫煙をくゆらせながら、右近がためいきをつき、左近は、ぼくのホットケーキをはしっこから、勝手につまみぐいしていく。
 喫茶店の照明は、いつも、理由のない不安をやわらげるようにやさしくて、あたたかい。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-15

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