アーユルヴェーダ拾仇

これちかうじょう

メル友大作戦篇、スタートです。

メル友大作戦篇スタート

したいとは言ってしまったけれども、
事の恥ずかしさに俺は少し戸惑っている。
熱が下がり続けていた冬至が、
とうとう高熱に転じて、
夢の中へ、遠い所へ行ってしまうところを引き返させるために、
例の台詞を言ったまでなのだが、
高校生の吐く台詞じゃなかったなと我ながら、こう、
恥を感じてしまっている俺である。

「そうか…じゃあこうかな、こうして」
相変わらず天野が交換日記をやっている。
と同時に、携帯を操作しているのを俺は見ている。
「あ、れ?あれ」
「…」
どうした、と城善寺が尋ねる。
「交換日記、おかしいとこあったのか」
「いや、違うんだ、メールを同時に送ったんだけど…他人に行きついたらしくて」
「他人?だってメルアドはちゃんと入力したんだろ」
「うん…変わってるメルアドだから間違うはずがないんだけど」
どれどれ、と城善寺がおせっかいを始める。
「へえ、柳瀬橋って書くんだ?ローマ字でやなせばしって」
「大地がかなりお気に入りの子らしくて…そう言えば城善寺のとこの一年生も柳瀬橋っていたよね」
「ああうん、今は保健室登校してるけど…あの柳瀬橋のことをメルアドにしてんの?お前の彼氏」
「彼氏は彼氏なんだけど…いや待って、違うんだ、大地は」
「大地ってんだ?ふうん、かっけえ名前じゃん?年下か」
「…君にはかなわないな」
「大地、大地、…もしかして、あの総理大臣賞の男子か!」
「そうなんだ、この前のコンクールで総理大臣賞を取ってさ…それのお祝いで、
 メールを送ったんだけどさ…違う人に行きついてしまったみたいで」
「もしかして」
それらを全部聞いていた十和子が呟く。
「メールのキャリア違いじゃないの」
「キャリア?」
「例えばドコモとか、auとか、ソフトバンクとか、ほら、アットマークの後が違うでしょ」
「ああそうか、確か大地はソフトバンク…これはドコモで送ってる」
「じゃあドコモのキャリアで柳瀬橋って名前をアドレスにしてるやつがいるってことか」
「すごく愛されてる子なんだね…」
そんな、昼休みの風景である。
「…」
そう言えば、冬至はキャリア、どこだろう?

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考えたこともなかった。
まさか、こんな間違いがあるなんて。

『昨日はごめん、せっかく君が頑張った賞をお祝いできなかった。
 今度埋め合わせさせてもらえるかな』

何事か?
俺が何を頑張り、賞を取ったというのだろうか。
新着メールが届いて、それを開いたらこんな文章だ。

間違えてんのかな?でも俺のアドレスでなかなか間違う奴、いないんだけどな。

「どしたん中村」
「んや、メールが来てさ。多分、人違いだ」
「そんなことってあんの?すげえな」
「俺も初めてだよこんなん」
親友の名前と誕生日をアドレスにしているほど、
俺は柳瀬橋が大切だ。
何度も死なないでくれと願ったし、
何度も阻止してきた。
どんなにつらい中学時代でも、こいつがいたから今の俺がある。
それくらい、俺は柳瀬橋に助けられてるんだ。

「今日うち寄ってけよ、ご飯一緒しよ」
腹がぐうぐう鳴る俺にそう声を掛けてきたのも柳瀬橋で、
「自転車乗る秘訣教えてくれ!そんでご飯一緒しよ」
と恥ずかしそうにしてたのも、柳瀬橋で。

ろくにご飯を食べてなかった頃の俺にとって、
柳瀬橋の家に行っておばさんのご飯を食べるのは天国のような話だった。
あれがなかったら生きていない。

「なんて?」
「何か意味不明」
「返信してみれば?人違いですって」
「うん、そうだな。向こう、気づいてないっぽいし」

『人違いじゃないですか?』

俺はポチポチとボタンを押して、送信した。

すぐに返信がある。
同じ人だ。
『ごめんなさい、間違えてしまったようです。お気を悪くなさらないでください』

「やっぱり間違いみたい」
俺は携帯を閉じた。
「なあ、歩く練習どう」
「杖使ってる、もうちょっとで階段もすんなりいけるよ」
「じゃあ教室復帰できそうか」
「うん、でも」
「あん?」
「中村が時間の合間を縫って逢いに来てくれるの、終わりになっちゃうなんて寂しい」
「馬鹿たれ」
教室復帰すればいつでも会えるだろうに、
と俺は柳瀬橋を小突いた。
「あ、そかそか」
「馬鹿だなーもう」
その時、メール着信の音が再び鳴った。
「あれ、さっきの人かな」
俺は携帯を開ける。
『藤原冬至さん、ですか?』

おいおいおいおいおいおい!ダイレクトだな!
しかも、アドレスが、…なんだろ、意味不明な羅列だ。
つまり、知らない人。
「どうしよ」
「どしたん」
「また迷惑メールみたいな」
「でも、冬至さんですかってあるじゃん、はいって答えろよ、冬至さんなんだから」
笑ってそういう柳瀬橋は問題が分かっていない。
何かの詐欺だったらどうするってんだ。
「ま、いっか」
詐欺なら次に返事しなければいい。


『そうですけど、どういう意味ですか』

「打っちゃったよ…なんか怖いよ」
「返事来るかな?」
「んー…あ、来た」

『メル友になってもらえませんか』

「メル友希望みたい。でも相手知らないし、俺のことは知ってるっぽいけど…」
「誰だか知らない人とメル友か…いいんじゃないの?顔を知らない人とくっちゃべるのって、
 結構楽しそうなんだけど」
「おまえー、他人事と思いやがって」
でも、と俺は考える。
この人は俺のことを知っている人間だ。
しかも、藤原冬至、という名前で。
俺が5月31日に藤原姓を名乗るようになって、
それを知っている人物って、相当限られてくるんだけど。
それとも、ただの考えすぎかな。

『好きなんです、あなたのことが』

「え、何これ」
告白!?
俺に!?
俺にはでも、結ちゃんて人が…いや待て、あいつは下僕であり、兄貴であり、
俺のこと嫁とか抜かすけど、
男だし…。
この相手が、男か女かと想像すれば、
女の子と想像するに容易い。
だって、俺のこと好きって、
男子の子と好きって言う男子ってそうはいないだろう。
あ、いるか…柳瀬橋には橘ってやつがいるのと同じで、
俺には結ちゃんってやつがいるのと同じで…
でも、女の子だと信じたい!
初☆女の子とメル友!

俺はそう、変に確信してしまったのである。

『どこが好きなんですか』

『全部。』

『まるで俺がどんな人間か分かってるみたいですけど、
 俺はあなたのことを知りません。
 あなたの名前くらい、教えてください』

『…名乗れません』

ほれ来た!
名乗れないってことは、向こうは素性を隠すつもりだ!
俺にとって不利!
すなわち、俺の敗北!

『でも、話をしたいです。せっかく知り合えたのに、
 名前なんか気にしないで私と話をしてくださいませんか』

『…分かりました、でもいつか、名乗ってくれますか』

『はい、勿論。ひとつのクイズとしましょう。
 私の名前と、私の正体。
 藤原冬至さん、私が誰なのかを当てて下さい。
 そして探してください。
 逢えるのを楽しみにしています』

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で、どうなったの?
と柳瀬橋が覗いてくる。
「うん、相手を、正体を暴けってさ。
 いずれ、逢うことになるかもしれない」
「んん?どういうこと?」
「クイズだって。相手が誰なのかを当てろってさ。
 それまでお話ししましょうってことになった」
「何だかいつでも中村は不思議なことに首突っ込むねー。
 俺だったら面倒だしやらない」
「おい!」

とりあえず、昼休みが終わっちゃうからと俺は弁当を片づけた。
「もうちょっとでおじさん迎えに来るんだろ?
 俺、もう行くな」
「ありがとう中村。お弁当おいしそうだったねえ」
「うん、結ちゃんの特製弁当だからな」

保健室を出ると、雨が降っていた。
もうすぐ夏休みだってのに、雨ばかりだ。

7月17日。

期末試験も終えて、教室はにぎやかさを取り戻している。
掃除当番にぶち当たっているので、俺は部活に行くのが遅くなっている。
「雨だから筋トレかー…結ちゃんの天下だな」
でもこれ、と俺は両手首を見る。
黒いリストバンド。
片方2キロに落としてもらったのだが、結ちゃんからのプレゼントである。
これだけでも、俺、鍛えられてる気がするんだよね。
箒をぶんぶん回しながら掃除をする俺。
黒板消しをパンパンする近藤。
そうそう、近藤も同じ掃除当番だったんだよな。

「近藤、この前はサンキュな。おかげで手塚先輩に勝てた」
「何のことかしら」
「しらばっくれるなよ、テストに出るところ教えてくれたじゃん」
「知らないわ。でも、良かったわね。戻って来れて」
「あ、ああ、うん」
俺が変な世界に入りこんじゃった時、
確かに近藤が変だって言ってたんだよな。
ちょっと前の話。
結ちゃんがいなかった時の、俺の失踪事件。

結ちゃんが修学旅行から戻ってきてくれて、俺の暮らしは普通に戻った。
高熱を出したりしたけど、
今は至って普通。
熱を測り続けている結ちゃんは決して教えてくれないけど、
何故だか、寝る前にキスをしてくれるようになった。
それが表面的なものなので、俺はもうちょっと踏み込みたいとこなんだけど、
触れられただけで熱くなっちゃうので、
俺は頭がぼけぼけしてしまうのだ。

「遅くなりましたー」
4時15分。
俺は筋トレの現場にやってきました。
先に来ていた先輩三人がエネルギッシュに筋トレをこなしています。
「掃除当番だったんです、すみません」
「中村は結とペアを組んでください、足を抑えて」
「はーい」
君島先輩に言われて俺はひょこひょこと結ちゃんのとこまで行く。
「抑えてやるからな、ばっちり腹筋したまえ」
「うん」
その時だ。
ピロピロリん。
メールの着信音。
「ちょっと待って」
お尻で足を抑えながら俺は携帯を開ける。
「お行儀悪いですよ中村ー」

『今日は雨だから屋内活動なんですね?
 先ほどすれ違ったんですが、分かりましたか』

「えー!!!!」
「お行儀悪いぞ中村!」
「わっかんねえよおおおおおお」

仮にこの子をクミちゃんとして

クミちゃん、と名付けることにした。
どこにでもいそうな名前にした。
判明した時に、すぐにリカバリできるように、
クミちゃんにしたわけなのだが。

あれから何回もメールが届いた。
一緒にいる結ちゃんが怪訝そうにするくらい、
俺はメールに夢中になっていく。

彼女は俺を知っているのだ。
とことん、とことん知っている。

詳しいその内容は、まさにストーカー並なのだが、
保健室登校をそろそろ終える柳瀬橋のことまで知っているのだ。

クミちゃん、おそるべし。

「冬至」
寝る前まで携帯に夢中だった俺に、目が悪くなると結ちゃんが諭す。
「もう寝よう」
「うん」
もぞもぞと結ちゃんのベッドに潜り込む。
天然のクーラーというべきか、ここは涼しくて心地よい。
「おやすみ」
俺がそう言うと、結ちゃんがキスしてくる。
というのが常になりつつあるのだが、
そこでピロピロリんと鳴ってしまった。
「…明日見る、明日の朝、明日の朝ね」
「…おやすみ」
結ちゃんにキスされると、ぽぽぽぽしてしまうのだが、
俺はそれがちょうどよい眠気を誘い、
安眠できるようになっていた。

「クミちゃん…」
「…」

したいと言われた。
しかも、はっきりと、セックスがしたいと。
でもそれに及ばないのは、俺が結ちゃんのキスに満足して寝てしまうからで、
それ以上踏み込んでこない結ちゃんも、
しばらく俺の寝顔を見ながら寝てしまうので、
事はそんなに急いてはないことを示していた。
いつかはするんだろう。
というくらいで、俺はただ今は、クミちゃんのことで頭がいっぱいなのだ。

メル友大作戦篇、スタート

君は誰?
どうして俺を知っているの?
俺は知りたい、
君がどんな人なのか。
知らなければならないんだ、
これは、
俺にとって、使命なんだ。

アーユルヴェーダ拾仇

メル友大作戦篇、スタートラインです。

アーユルヴェーダ拾仇

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-05-14

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  1. メル友大作戦篇スタート
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