切れない刃

 彼女の遺品はほとんど捨てたけど、包丁だけは残しておいた。もしも僕が自殺したり、人を殺したりする時は、この包丁を使おうと思う。僕が指を切ることがないようにと、彼女が買ってくれた子供用の包丁を。これに殺傷能力はない、道を踏み外す時のお守りだ。彼女が生きることを辞めたように、僕も人であることを辞める時のお守りだ。彼女の痛みも優しさも、今では僕の一部だから。

切れない刃

切れない刃

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-12

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