砂の王国
砂。すべてが。さらさらと、くだけていくばかりの。
声がして、でも、だれの声かしらないし、わたしを、呼んでいるのではないと思う。わたしは、はんぶんこわれたカフェにいて、半壊はしているけれど、ちゃんと、コーヒーはおいしい。カウンターのむこうには、ひとのかたちをした、機械。コーヒーを淹れる動作も、こわいくらいに、機械的。
(緒)
つながっていたはずの、それが、あっさり断ち切られた日。あのひとたちが、みんな、海で、泣いて、泣いて、のどがちぎれそうなくらいに、さけんで。あたしが、わたしになって、きのうまで花が咲いていたはずなのに、いくつかのちいさなビルがあったはずなのに、沼みたいな、池みたいなものもあったはずなのに、ぜんぶ。砂。どこから降ってきたのか、突き立っている。じゅうじか。
カフェで。わたしのいるテーブルの、となりの、そのとなりのテーブルにいる、黒いワンピースを着た少年と、少女が、星座早見盤をみている。無表情で、じいっと、みている。
砂の王国