ぐらい

ぐらい

時折病魔のようにどことない不安が胸中に募る。耳からは垢がこぼれ落ちつつける心地がして、自然と指を突っ込む。瞬間に周りの目を意識して黒く恥ながらトレイに指を戻す。
慢性的なそれは欲心を加速する。やれ環境が身なりが努力心が普遍すぎてつまらんとダダをこねる雲母めを見る。いかにも普通で困る悩みである。
それを打った時かあつと顔が熱くなった。怒りだ。雲母めはやつの顔を殴った。殴りたい気持ちでいっぱいだった。が周りの目が気になる。気にしいな性分が異端な雲母めを退ける。
いかにも普通で困る悩みである。

ぐらい、としか形容できないものがある。暗く黒いものだがその双方で形容したくない。ぐらい、と呼ばれるそれは視界には及ばす世界にも及ばす胸中に募るなにかである。
雲母めは良く明るい人間と呼ばれる自負があった。他の人間は雲母めの長所しか見ない。あまつさえ短所を許し、短所を長所と見誤る愚行を犯す。雲母めは魂からよくないのだ。ただ悪にはいたれずにいる。友はなぜ友でいられるのだろうか。本来の雲母めは文の中にしかいれない。不安だ。雲母めがみゆる弱の雲母めはここにしかいないのだ!
そうだ。雲母めは悪い人間でございます。偏食で、人の話を聞かず、人を傷つけまいとして人を傷つける。とんでもない大悪党にございます。
ですから、どなたか今殺して下さらないかしら。ねぇそこのあなた今すぐそこのあなた私今は死にたい! 明日は生きたいと思ってるだろうから。(愚かな雲母めは寝るときれいな雲母めに戻るのです。その頃にはこのぐらいものも忘れていますわ)
自殺はダメです。雲母めは自殺者を嫌っております。この世でミニトマトと並ぶくらいに嫌いでございます。憎んでございます。それともなんですか。ナルシストに自身を憎めというんですか。雲母めは雲母めを愛しています。雲母めは雲母めを何事よりも優先したく存じます。ですから! お殺せになられてよどなたか。こころが腐って随分前に腐っていてダメになってしまっているんです。イイヤ、元からダメだったんだわ。中央にある雲母めの心臓はぐらくぐらく腐っていたのです。
わかりましたわ譲歩しましょう。じゃあどなたか首吊り縄を持ってきて。それとも階段で突き落として。ねぇだれか病にかけてよ。それだけでいいの。それだけを願っているの……。
死の間際に「生きたい」と思えたら勝ちなのよ。やっとこの世に生まれた罪から酸素を減らした罪から雲母めは逃げさせるのです。ねぇだから私を殺して?
いかにも普通で困る悩みである。

ぐらい

ぐらい

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-11

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