キャンパス
広い、広い芝生が広がる公園があった。
誰もが思い思いに遊んでいる。
キャッチボールをしたり、ピクニックをしたり、追いかけっこをしたり。
いつもこの公園は家族連れや子供達で賑やかだ。
◇
ある日、その公園に白いキャンパスが置いてあった。
サイズはまぁ人1人では運べないほど大きい。
この芝生の半分を占めているのではないかと思うほどだ。
(何かのイベントだろうか)
そう思ったが、看板はあるものの、それらしきことは書かれていない。
「ご自由にお書き下さい」
看板にはそう書かれている。
絵の具も筆も多種多様に用意され、誰でも描けるらしい。
公園に遊びに来た家族連れが前を通る。
子どもが親に何かをせがんでいる。
親がやれやれとした顔で、子供は笑顔を浮かべた。
どうやら白いキャンパスは遊び場と見なされたらしい。
子供は早速、絵の具が入っているバケツに手を突っ込み、白いキャンパスに嬉々として自分の手形を残していく。
それでは飽き足らず、足もバケツに突っ込み、駆け出していく。
なんとも楽しそうだ。
その子の両親は、微笑ましい顔で我が子を見守っている。
さて、そんな家族連れが一体何組来たのだろう。もう気づけば白いキャンパスの上は、足跡、手形やらで鮮やかに彩られていた。
それは唯一無二の芸術と言っていいほど、素晴らしいものであるだろう。
◇
--わたしはそんな想像を、この小さな白いキャンパスの上で繰り広げる。しかし、何も描けない。
私は白いキャンパスの前で立ち竦んでいる。
筆を持たされ、様々な色が足元にある中、ただ何も出来ないまま。
恐れをなして、1本線を引くことさえ躊躇う。
描きたいのに、描きたい気持ちは確かにあるのに。
他人の目を気にして、自分が求めているものが分からない。
「私は何を描きたいのか?」
そんな疑問をずっと浮かべたまま。
その答えを求めようとしない。
どう答えを求めるのかその方法を知らないんだ。
だから、ずっと描けないと逃げていた。怖いから。それでも、完全に生きることを諦めることも出来ないまま。白いキャンパスの前で何も出来ず、俯いた。涙が溢れて止まらない。
◇
…どのくらいそうしていただろう。
他人は答えを急かす。やりたいことは?お前は何をしたい?
…描く自分だって答えを知りたい。
もう、自分はもう立ち止まって涙を流すことに疲れてしまった。それでも、答えは出さなきゃいけない。
「ええい、ままよっ」
どうにでもなれ、そうヤケになって、絵の具をぶちまける。汚していく。泣きながら。
答えなんて見つからなかった。
だから、あの時想像した子供のように、無邪気に。
ただ描いた。
キャンパス