キャンパス

広い、広い芝生が広がる公園があった。
誰もが思い思いに遊んでいる。
キャッチボールをしたり、ピクニックをしたり、追いかけっこをしたり。

いつもこの公園は家族連れや子供達で賑やかだ。

ある日、その公園に白いキャンパスが置いてあった。
サイズはまぁ人1人では運べないほど大きい。
この芝生の半分を占めているのではないかと思うほどだ。
(何かのイベントだろうか)
そう思ったが、看板はあるものの、それらしきことは書かれていない。

「ご自由にお書き下さい」
看板にはそう書かれている。
絵の具も筆も多種多様に用意され、誰でも描けるらしい。

公園に遊びに来た家族連れが前を通る。
子どもが親に何かをせがんでいる。
親がやれやれとした顔で、子供は笑顔を浮かべた。
どうやら白いキャンパスは遊び場と見なされたらしい。

子供は早速、絵の具が入っているバケツに手を突っ込み、白いキャンパスに嬉々として自分の手形を残していく。
それでは飽き足らず、足もバケツに突っ込み、駆け出していく。
なんとも楽しそうだ。
その子の両親は、微笑ましい顔で我が子を見守っている。

さて、そんな家族連れが一体何組来たのだろう。もう気づけば白いキャンパスの上は、足跡、手形やらで鮮やかに彩られていた。

それは唯一無二の芸術と言っていいほど、素晴らしいものであるだろう。

--わたしはそんな想像を、この小さな白いキャンパスの上で繰り広げる。しかし、何も描けない。
私は白いキャンパスの前で立ち竦んでいる。
筆を持たされ、様々な色が足元にある中、ただ何も出来ないまま。

恐れをなして、1本線を引くことさえ躊躇う。
描きたいのに、描きたい気持ちは確かにあるのに。
他人の目を気にして、自分が求めているものが分からない。

「私は何を描きたいのか?」

そんな疑問をずっと浮かべたまま。
その答えを求めようとしない。
どう答えを求めるのかその方法を知らないんだ。

だから、ずっと描けないと逃げていた。怖いから。それでも、完全に生きることを諦めることも出来ないまま。白いキャンパスの前で何も出来ず、俯いた。涙が溢れて止まらない。

…どのくらいそうしていただろう。

他人は答えを急かす。やりたいことは?お前は何をしたい?
…描く自分だって答えを知りたい。

もう、自分はもう立ち止まって涙を流すことに疲れてしまった。それでも、答えは出さなきゃいけない。

「ええい、ままよっ」

どうにでもなれ、そうヤケになって、絵の具をぶちまける。汚していく。泣きながら。
答えなんて見つからなかった。
だから、あの時想像した子供のように、無邪気に。
ただ描いた。

キャンパス

キャンパス

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-05-11

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