メトロポリス・アンダー
シロップみたいに甘い夜があればよかったのにね。架空的な恋人関係。狂気的な恋愛依存。あのこたちのこと。もふもふにつつまれて、やさしいふたりでいたかったと思ったかもしれない。なにかがあした、おわる前夜。
星の構造を想う。
七生が、つめたくなったスマートフォンを埋めて、ノエルだったはずの者は、尽きない食欲に悩まされて、サクマだけがまだかろうじて、サクマという存在でいる。ノエルだったはずの暴食が食い散らかしたあとの、腐臭だけが、けれど、生命の尊さを具現化している。気がする。気がするだけ。嘔吐感を通り越して、おかしくなっているなあ。
いっしょに踊ったときのことを、おぼえているのはたぶん、ぼくだけ。
むきだしの配線。うなるダクト。崩れかけたアスファルト。街の裏側で、孤独なひとをたくさんみたし、その手が黒く染まり、よごれていくのをただぼんやりとながめているしかできないひとも、いたよ。七生のくちびるの厚さを思い出しながら、サクマのとなりで、ノエルにつかまれた左腕が次第に、ぼくの左腕である確信をうばわれていく。
メトロポリス・アンダー