新作短歌集/薔薇に恋して【2022年版】
他の花に 心移してこの浮気者 恨みの棘に思い知ったか
葉切り蜂 何とか払いて束の間の
心の安らぎ 薔薇に包まれ
花の終わり 残りの花弁を取り払い
ご苦労だったと木々を労わる
陰りたる花を千切りて幼子の
小さな手に渡せば笑顔が輝く
(2022/05/23)
我が色を 気づかぬばかりか忘れ果て
腑抜けとなりし君情けなや
この園を 訪れし人の虜となりて
一年余りも 我を蔑ろに
君知るや 看取られもなく散る花の
風に託せし哀歌の調べを
色づきし うちに秘めたり思いをば
陽の輝きに 開き放たん
そよ風に 振らり戻りし君憎や
許さぬ証に 恨みの一刺し
(2022/05/12)
忘れじと 何をいまさらと言いつつ薔薇は
えいとばかりに我が指刺しぬ
夏の日に生身の花に気を移し
涙に枯れる我を見捨てた
それ見たか 人の心の移り気を
生身の人とはそういうものよ
この身をば愛し整え 命の水を
注いで暮らした日々忘れしか
愛すればそれに応えて咲く花の
誠の愛をないがしろにして
恨みをば 棘に込めしと泣く薔薇に
悔いて慰め その日は暮れぬ
明けて朝 さわやかなりや五月の風に
花の機嫌を訪ね廻らん
注す水に ものは言わねど伸びし枝
硬き蕾を 緩めたかに見ゆ
明くる朝 ようやく深き紅いの
蕾ほころび 開くひとひら
病葉を取りて 株もと土を入れ
水を注いで 明日の日を待つ
爽やかな枝を過行く風に揺れ
陽に輝きし深紅の一輪
紅深きビロード肌のひとしずく
残りし露の真珠の輝き
貴婦人の心の乱れ跡形もなく
気品を保ちて優雅に微笑み
気高さに嫉妬の心を 隠しつも
我を魅了する薔薇こそ愛しや
(2022/05/08)
【薔薇の覚悟】
麗しき姿をさらせば他の人に
心移さぬかとは いらぬ詮索
この身をば浮気な花と よくもまあ
我を見捨てし日々を忘れて
我咲けど 足は庭から動けぬ身
棘は操を覚悟の証
君もしも 浮気心を疑わば
その挟みにて この身を断ぜよ
それ故に 紳士淑女を招き入れ
我との絆を 知らしめ給え
そよ風に揺れる彼女は耳元で
私の心に そう囁いた
(2022/05/09)
*また出来次第、旧「薔薇に恋して」もご覧ください。
(いずみ)
新作短歌集/薔薇に恋して【2022年版】