『ループ』

春のひと

ね。きみひとりのために用意したよ。
うん。そう。
この部屋には、なにもないね。
真っ白い壁と扉。開かない窓が、ひとつ。
窓から見える外の景色は、いつだって、あのころの穏やかな春。


壊れた椅子、割れた鏡。弾が入っていない銃。
きみには必要ないから。
だから、そういう役に立たない危ないものは、なにひとつ、ここにはないの。
きみはきみの視たいものをじっと視ていく。
時間が忘れてしまった、この部屋で。


白は良いね。
なんだって染まるから。
うん。
もし、この部屋が気にいらなくて、つまらなくなったら、いつでも。そこの扉からどうぞ。
鍵はかかっていないの。
出入りはきみの自由。
でも寂しくなって、苦しくなって、壊したくなったら、またここに来たら良いと思う。
私はそんなきみの邪魔をしない。


この部屋にいれば、私には聞こえないけれど、きみには聞こえる声がきっとある。
白が語りかけてくる。
それでも私はきみの邪魔はできない。
きみが、私にそう望んだから。


ね。きみひとりのために用意したよ。
思いどおり。そんな世界を。
私だけがいないね。
嬉しくなったら、今度はちゃんと。笑ってみせてね。

『ループ』

『ループ』

おかえりなさい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-28

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