対岸の

 駅のなかのコーヒーショップで、カフェモカをのんでいて、となりのテーブルの女の子たちが、好きなアイドルのはなしでもりあがっているあいだにも、たぶん、星は、みえないところでじゅくじゅくと、膿んでいる。さっき、電車で、おなじ車両に乗っているひとたち、みんな、スマートフォンをみていた。みんな。長方形の電子板に、くぎづけだった。ちょっと、こわいなぁと思いながら、わたしは、図書館で借りた本を読んでいて、夜の海に沈んでゆく都市を、ときどき眺めた。あかりをもとめて、ねむらない魚たちが、優雅に泳ぎ出す頃だ。目覚めた旧型のアンドロイドが、水平線の向こうの街を支配しているというし、きっと、星も、膿んでいる傷口を癒やせないままで、ただ、その機能が衰えてゆくのを、他人事のように傍観しているのかもしれなかった。
 なんとなく、そういう気分だったので、カフェモカに砂糖をいれたのだ。

対岸の

対岸の

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-25

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