セーター

 朝目覚めると部屋に羊がいた。寝起きのまだぼんやりとした頭を懸命に働かせて状況を理解しようとしていると羊が口を開いた。
「あんたねえ」どうやら機嫌が悪いらしい。
「はあ」僕は応えた。羊が喋ったことには驚きはなく、部屋の中で見る羊がやけに大きいなと考えていた。
「どうすんのよ」
「えっと、どうするとはいったい何をどうするんでしょう」
「こんなところに私がいておかしいとは思わないの、あんた」
 羊はイライラとした様子で床を前足でかいた。フローリングに何本かの筋が描かれる。
「あんた、ゆうべ寝るときに私らを数えたでしょ」
「ゆうべ、そうだったかな」
 僕はゆうべのことを思い返す。そういえばベッドに入ったあとも仕事のことやら彼女のことやらが頭のなかでぐるぐると巡っていて中々寝付けず、羊を数えたことを思い出してきた。
「ああ、数えましたね。うん」
「だろう。困るんだよね」
「といいますと」
「数えるのはいいのよ。それが私らの仕事だから。でもね、呼びだしておいて途中で止められちゃうと困るのよ」
「はあ」
「いよいよ私の番だと気合をいれて登場したとたん寝ちゃうんだもの。私の立場どうなんの。で、そのままここに置いてけぼり。ほんと、たまんないよね」
「それは、大変しつれいしました」
「うん、分かってくれればいいんだけど。でも、これからどうすんの」

 そんなわけで僕の家には今も羊がいる。広いとは言えないマンションのリビングで、今日もソファーに横になりテレビを見ながらキャベツをモシャモシャとつまんでいるはずだ。おかげで今年の冬は新しいセーターを手に入れられるかもしれないな。

セーター

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-22

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