こわれるだけ

 いぬがいて、かなしいだけの国だけれど、でも、ところどころに温もりも存在した。生命、というものが発する熱は、ここちよいのだ。呼んでも応えない、ネム。ロールケーキをたべているあいだに、夜、とっくに聞き慣れたはずの、踏切の音におびえる。いずれは植物になる、わたしたち。ぼくたち。博物館にて。ていねいに、肉体をあつかわれて、展示物となった。きみ。
 四月は残酷に、少女が紡いだ(ことば)を、ほどいてゆくね。
 朝になったら空気になってあげる。
 どうぶつたちだけの世界で、血のにおいがするのがたえられないよ。吐く。
 天体望遠鏡をのぞいて。意識だけが、宇宙にとんでる。ネム。
 細胞凍結。
 きみは、透明な壁の、向こう側のひと。

こわれるだけ

こわれるだけ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-22

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