幻肢痛

メモ帳に書いたのが前過ぎて、久々に見返した時この話何だっけってなりましたけど、無事に復元できました。

数年前に、ある歯医者ですべての親知らずをぶち抜いてもらった。その時の事は未だに私の中で大きなもの、出来事として存在しており、アメブロなんかにも再三にわたって、
「あの歯医者には足向けて寝れない」
というような事を書いてきた。

その当時、歯が痛くても痛み止めを飲んで何とかしのいでいた私だったけど、いよいよ痛み止めも効かない、お酒飲んだら血行が良くなって、それでなのか知らないけど歯の痛みが、痛み止めいくら飲んでも、歯の痛みが。っていう事になった。なっていた。最大時は寝れないくらい痛んだ。寝てても痛みで起きてしまう。泣くほどの痛みだった。MAXPaine時。あまりの痛みにテーブルの足を噛んで何とかしようと思ったこともある。首肩の凝りなんかと連動している様な気がして、ぐるなびと楽天を連携したらぐるなびで予約すると楽天にポイント入るみたいな感じで。首肩にアンメルツとかバンテリンとか塗りまくって皮膚が溶けたこともある。

歯の、あの歯の独特の痛み。あの当時何をしていても不安だった。何かがきっかけとなって歯の痛みが出てくるんじゃないかと。再びあの悪夢のような時を迎えるんじゃないかと。

そんな不安の一切をある歯医者に行って全て取り除いてもらった。親知らずを全部抜いた。パーフェクトダークに出てくるサイクロンみたいな形の機械で麻酔を打ってもらって、その後にペンチとかコンパスみたいなものを口に突っ込まれて親知らずを抜いてもらった。

歯茎に針を刺されて麻酔を打たれた。レントゲンでみた親知らずはどれもこれも根が、歯茎下の根が異様な形をしており、上下のかみ合わせが適さない形をしていた。望まれない子供であった。奇形児だった。

それらをその歯医者で全部抜いてもらった。親知らずはどれもこれも抜く時めきめきめきと頭蓋骨に響いた。

その後、歯の治療も一通り全部済ませた。歯の裏側、間の清掃もしてもらった。

ドリルで削られたりした。血もそれなりに出た。

しかし、それらの出来事の全てがなんでも無かった。何ともなかった。歯の痛い、「また歯の痛みが出てくるかもしれない」って思っていたあの頃に比べたら。なんでもなかった。無いに等しい。等しかった。いつ終わるとも知れない歯痛の日々に比べたら。

最初から最後までお世話になった歯医者の先生は、全ての治療が終わってもうしばらく来なくても大丈夫ってなった最後の日、
「絶対に途中で来なくなると思ってました」
と言った。どうもありがとうございました。私は頭を下げた。

それから今に至るまで、生まれ変わったような気持ちで過ごしている。

もう歯の痛みが訪れることが無い。歯の痛みに悩まされることが無い。そんな今の日々はなんと素晴らしい日々なんだろうかと。そう思って過ごしている。

が、

最近ちょっと歯医者に行くのをサボった。サボってしまった。これが人間の愚かなところだと思うんだけど、大丈夫だと思ったらもう辛かった日々を忘れちゃう。っていうか。

そしたら最近なんか知らないけど、親知らずがあった場所、今はもう何もない平地の場所に親知らずがあった時のような痛みが発生するようになった。

「え?え?」
で、常々思う、私は半ば確信的な感じで思ってるんだけど、人間って言うのは一回目はなんとなく耐えられるんじゃないかと思うんだ。一回目。一回目はそれがどういうものかわからないし、全貌が見えないから。

「でも二回目は」
その工程が全部わかってるから。だから耐えられないんじゃないかと。例えば一回世界を救った勇者が、束の間の平和を享受した後、再び魔王が復活してその魔王をまた倒しに行けますか?っていう話。私は無理だと思う。特に平和を享受した後なんて。一生修羅ならできるかもしれないけど、間に修羅じゃない時を入れたら。しかも待ち望んでいた平和なんてものが間に入って、
「ああ、よかったなあ」
なんて思ったりしたら。

どうやってまた、どうしてまたあの日々に戻れようか?辛かったあの日々に。傷だらけになったし、仲間も死んだりしたし、体だって相当酷使した。何度も死ぬかもしれないって思った。そんな日々に。そんな日々にどうして?戻れようか。

だから、本当に狼狽した。

歯の痛み。歯痛。親知らず級の痛み。歯の痛み。親知らずの痛み。痛みは間違いなく親知らずのあった場所から。でも親知らずはもう存在していない。じゃあこれは?恐ろしいほどの恐怖があった。

平成ゴジラシリーズの最初で三原山の火口に落ちたゴジラ。それの復活を感じさせるような恐怖感。やっとの思いで三原山の火口に落としたのに、それが復活するという恐怖感。その恐怖感!

だから、急いでお世話になった足向けて寝れない歯医者に電話した。

で、狼狽しながら、
「あ、あの、あのあのあの、歯の痛みが、親知らずが、抜いたはずの親知らずが!幻肢痛ですか!」
って言った。説明した。
「あー、そうですかあー」
しかし、聞くと私がちょっとその歯医者への通院をサボっている間に、歯医者は移転してしまっているんだという。
「移転!?」
すげー儲けたの?儲けてたの?

で、聞くと今は大宮の方でやってるんだという。じゃあすげー儲けたんだなあ。ソニックシティの近くでやってるんだという。すげー儲けたんじゃん。

「大宮ですかあ」
遠いなあ。あと寝る際の足の方向が変わるなあ。

でも、
「その代わりに」
と言って、代わりを紹介してくれた。

だから、さっそくEPARKで予約して行ってみると、

『メンタルクリニック』
って書いてた。看板に。

いやデンタルクリニックと似てるけども。メンクリ?え?メンクリ?

目を何度かぐしぐしした。ぐしぐしして見直した。でもやっぱりメンクリ。メンクリかあ。メンクリなあ。怒ってんのかなあ。通院サボったから。怒ってんのかなあ。怒ってたのかなあ。

幻肢痛

幻肢痛

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-16

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