死ぬ前にやること三選

死ぬ前にあなたは何をしたいですか?

俺は相沢考樹。高校二年生。

 こんな語りだしで始めたが、俺には何もない。スポーツができるとかクラスでトップの成績だとかそんなものは俺にはない。何もないし、誰からも必要とされることはない。尚且つ、クラスの不良グループにいじめられているんだ。終わっているだろ?

 だから、死ぬことにした。だからっていうのは少し違うかな。いじめられているから死のうと思ったではない。なんだろうな。もうこの世界、地球に俺のいる場所はないんだ。悲しいでしょ? 俺もさ、最初にわかったときは悲しかった。宇宙に行けたらさ、何か別の居場所があったのかもしれないけどね。ということで、死ぬ前にやることを考えたんだ。やりたいことなんだけど、やらないといけないことに近い。

 歩道橋を歩きながら、死ぬ前にやることを考えるのも良いのかもしれないね。

 俺は通学鞄を肩にかけ直し、帰路を歩いた。

「いただきます」

 夕食はカレーライスだった。定番のカレー。母親の味ってやつ。母さんと父さんはテレビを見ながら、笑っている。俺も笑いながら、二人とも俺が死ぬって思ってないよなと考えたら、また笑ってしまった。何だか死ぬって決めてから気持ちが楽になったみたいだ。

 自室に戻ると俺は死ぬ前にやることをノートに三つだけ書き出した。三つ。それだけで良いんだ。

 次の日いつものように通学鞄をかついで、高校に向かった。

 教室のドアを開けるとシーンと静まり返る。

「あれ? 転校生?」

「「ハハハハハ」」

 髪を金に染め上げた男がとぼけた顔をして言うと、取り巻きの鳥たちがピーピーと騒ぎ始める。

「もう来なくて良いって言ったよね」 

「なんで来たんだよ」

「帰れ」

 金髪が言うと取り巻きがまた騒ぐ、同調性って面白いよな。

 俺は周りの視線を無視して、自分の席に行く。

「転校生には席なんてないぞ」

 金髪がワハハと笑う。俺の机があった場所には炭酸飲料の空き缶、コンビニのおにぎりの包み、タバコの吸い殻が転がっている。俺の顔を見た奴らがニヤニヤと笑う。笑う。笑う。笑う。

「アハハハハハハ」

「えっ」

 俺は笑う。自分の席がないことに、ゴミが周りに転がっていることに、滑稽にニヤニヤと笑う馬鹿者たちに。

「アハハハハハハ」

 楽しい。悲しい。嬉しい。苦しい。すべての感情を笑いに変える。

「おい、やめろよ。今すぐそれやめないと殺すぞ」

「アハハハハハハ、ぐっ……はハハ」

 腹を殴られる。頬を殴られる。どんなに殴られても笑い続ける。

「アハハハハハ」

 何人かかってこようとも決して笑うのを止めない。

「こいつ何なんだよ。頭イカれたか」

 足で腹を蹴られ、跪こうとも口元の笑みは閉ざさない。

「何してるんだ!」

 教師が教室に入ってきた。俺はそのときも、笑うことをやめなかった。 

「今日はもう帰りなさい」

「はい」

 俺は笑みを浮かべてそう言う。担任教師は気味の悪いものでも見る目で見つめると

「明日、親御さんに来てもらう」 

と言って、俺の前から立ち去った。あの男は前から気づいていた。ずっと見て見ぬ振りをしていたんだ。俺は底辺の傍観者の後ろ姿を笑って見送った。

そして、校門を出るときも笑みを絶やさなかった。

「一・最後は笑って学校を終わらせる」

死ぬ前にやること三選

死ぬ前にやること三選

  • 小説
  • 掌編
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted