手紙

昨日、母が死んだ。自殺だった。母と二人で暮らしており、友達も少ないメイはもう頼るものがなくなった。元々は祖母とも暮らしていたが、十年前の、メイが七歳の時になくなった。それからは母が一人でメイを育ててきた。身内が亡くなると、悲しむ暇がないくらいするべきことがあると聞いていたが、会ったこともない周りの大人たちがざわざわと動いているのをメイは見ているだけだった。

メイには一つ、秘密があった。夢に出てきた内容が現実に起こるという不思議な能力をもっていることだった。それに気づいたのは小学校低学年の時、祖母が突然倒れてなくなった夢を見たことである。それからというもの、授業への忘れ物という小さなことから、同級生のいじめなど様々なことを一週間前から前日の間に知ることになった。最初のうちは友人に話していたこともあったのだが、気味わるがられ、話すこともなくなった。しかし、夢が現実に起こるからこそ、そのまま傍観するのもなんだか心地悪く感じていた。というのも、なんだか段々不幸なことが身の回りで起こることが増えたと感じるからだ。祖母の死、同級生の誘拐、唯一の親友のいじめによる自殺――。何か呪いがかかっていると思わざるを得なかった。

しかしながら、何故か母の自殺は夢に出てこなかった。母には一度だけ、中学生の時に能力について話したことがある――。

「ねえ、お母さん、私予知夢が見える気がするんだ。前おばあちゃんが亡くなったときも、前日に夢で見ていたし……誘拐事件があったのも夢でみていた……」

「やめなさい。そんな不謹慎なことを言わないで。ただの偶然よ」

全く顔をこちらに向けずに言い放った。明らかにいつもとは違う冷たさに呆気をとられたものの、不謹慎なことを言ってしまったと反省し、あまり母の態度を深く気にすることはなかった。

その頃を思い出したメイは母が亡くなったのを気づけなかったのを後悔した。そして、何故か実の母が亡くなったのに涙が少しも出ないことに不安と申し訳なさを感じた。と同時に、母の態度に疑問を抱き、何か隠していることがあったのかもしれないと思った。そこで、母の部屋に入ることにした。母の部屋に近づくと大人たちが遺品をまさぐっている音と声が聞こえた。今は諦め、いなくなった夜に入ることにした。その間、やはりメイは暇で、自分の部屋に一人引きこもっていた。夜になってやっと静かになった時、母の部屋は周りの大人たちによって荒らされており、静かな部屋とのアンバランスさが妙に際立っていた。こんなに金目のものがあったのかというように沢山のアクセサリーが段ボールの中に入っていた。今日の昼の大人たちの声はそのためだったのだと思った。

部屋を見回していくと、端にある一枚の手紙が目に入った。なんだか気になり、すぐに手に取り、開ける。遺書のようなものだったが、途中に気になる文を見つけた。

「メイの能力が強くなってきている。このままだとメイの能力に押しつぶされて私は死んでしまう」

あまりに直接過ぎる表現に立ち尽くしてしまった。母も能力についてやはり知っていたのだった。母も同じ能力を持っていたのだろうか。しかし、今は亡き母には何も尋ねることはできない。沢山の疑問がメイの頭の中に浮かんできた。あの大人たちも自分について何か知っている。そう確信した。しかし、あの大人たちに直接聞く勇気もなければ、聞いたところで何をされるかわからない。メイはぐるぐる頭を動かすしかなかった。そして、今晩は何も夢を見なかった。

次の日もあの大人たちがやってきて、やはり母の部屋に集まっていた。メイはそれを見つからないように聞くしかなかった。その晩母の部屋は、前日のことが嘘のようにものがなくなっていた。今晩は一つ、夢を見た。母と一緒にお花畑を歩いている夢。とても平和な夢だったが、母は既になくなっているため、どういうことなのかはわからなかった。

次の日は大人たちが来なかった。その次の日も、次の日も。突然メイの前から姿を消してしまった。メイはやはりこれから一人で生きるしかなかった。あの大人たちは何だったのだろう。ポケットの中に入れた手紙を手でぐしゃぐしゃにして、目の前で立ち尽くすしかなかった。

手紙

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  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-14

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