うわついたこころとからだ

彼女の章

鏡にちらりと写り込んだ自分の姿に、口元が緩んだ。

何度も鏡の前でポーズをとってみる。別にばっちりメイクをしているわけじゃない。お出かけ前の綺麗な服なわけじゃない。今は洗濯の真っ最中で、ぼさぼさの髪を適当にまとめた部屋着スタイル。それでも鏡に見入ってしまうのは子供の頃からのクセだ。

『かわいい』という言葉は私ためにある、と信じている。

世間一般からすれば、私はただのイタい女だ
中の中クラスである(と信じたい)顔とスタイル。モデルになった事もないし、おしゃれスナップを撮られた事もない。ナンパもあんまりされない。学校やクラスのモテ子になった事もない。むしろどこをどう考えれば、自分をかわいいと思えるのかわからない。
究極の勘違い女である。

この勘違い女を作り出したのは、同じく勘違いな親だった。
子供の頃から何かにつけて「かわいい」が口癖だった親のいう事を素直に聞きすぎたのだ。今でも両親は私をかわいいと言う時がある。そして私はそれを疑っていないのだ。
世間が何を思おうとも。

毎朝下着姿で鏡の前に立ち、スタイルを舐めるようにチェックする。
ひざが乾燥気味だとか。下っ腹が少し弛み気味だとか。
念入りなチェックの後、鏡に自分が最も可愛く見える顔を作る。
そして心の中で思いっきり褒めちぎるのだ。
今日の二重は最高に魅力的。髪の寝癖すらかわいらしい。
唇は赤くてぷっくりしているし、肌の調子もいい。
だからそれを維持するために、沢山の時間とお金と労力を使おうと決心するのだ。
自分の部屋だけでない。トイレの鏡、街中のショーウインドウ、車のミラー、などなどなど。自分の姿が移れば、どこにいようが、何をしていようが、観察してしまう。自分の世界をひたすら築き上げる。

ただ、写真。あれだけは絶対にダメ。
真を写す、なんてよく言った物で、私が築き上げた世界が一瞬で壊れてしまう。
笑うと頬の肉がもりあがって不細工。目も細くなる。浅黒い肌の色にくせ毛の髪。かわいいなんてとんでもない。欠点ばかりが目についてしまう。
おかしい。今朝鏡で見たら、あんなにかわいかったはずなのに。何故ここにこんな不細工が写っているの?
私が朝見たものは幻だったのかしら。
ピンクでふわふわで甘いお菓子のような私の世界に冷や水をぶっかけ、泥々の暗い世界にしてしまう。
その時に気づくのだ。
あ、私をかわいいなんて思ってくれる他人はいないのかもしれない、と。

だから私はこんな私をかわいいと言ってくれる誰かに愛を売る。
最初は非モテ系の学校の先生から始まって、ヲタクな30代フリーター、身長に大きなコンプレックスを感じている自営業、髪の薄い先輩、チャラ系大学チャラい系サークル出身の童貞。
年がうんと離れていれば、若さという色眼鏡がかわいく見せてくれる気がした。
その人の周りが決める普通には何かが欠けていれば、私の不安とその人のコンプレックスを舐め合って生きていけると思った。
そんな欠けた人でも愛せる私を美化し続けた。

私はきっと世界で一番私が好きで、これからも私を世界で一番好きであり続けるのだろう。
その時に必要なのは、たまに降りかかる冷や水から私を守ってくれる傘であり、体を温めてくれる毛布であり、私と私の世界を築いてくれる鏡のような存在。
そうしてくれるなら、私の身体なんて安いものだ。
だから、お願い。私を世界で一番かわいい、世界で一番愛しているといつも思っていて。

彼の章

「こんな時期にメールなんて、デートのお誘いかと思っちゃいました♡」
携帯電話のディスプレイに浮かぶ文字からは温度が感じられない。こんな事、誰にでも言うのかな。俺だから言ってくれるのかな。そんな深読みばかりしてしまう。落ち着け、24歳童貞。お前の人生はそんな簡単に進むものじゃなかっただろうが。
件のメールの女の子とは三ヶ月前に初めて話した。
高校の後輩が所属するサークル主催のクラブイベントでショーをする事になり、出演者控えスペースのロフト部分でぼんやり下の舞台を眺めていたのが彼女だった。後輩の後輩で、賢そうな目をした女の子。偏差値70超え有名大学のサークルと言う事もあって、事実頭も良いんだろうけど。真面目そうなわりに、醸し出す雰囲気が色気がある。エロいとかじゃなく、艶っぽい。後日、彼女が年上キラーで、ありえないスペックのオトコばかりと付き合っている事を聞いた。印象は清純派エロから相当なビッチへ。その直後、ばったりイベントであった時は、凄い柄の網タイツにショートパンツで深夜の歓楽街を横切っていて、余計にビッチイメージに拍車がかかった。
正直、生きてる土台が違う相手だ。俺は何とか大学に入った、ブサメン童貞。彼女は秀才系ビッチ。彼女は軽々と色んな物を手にいれてきたのだろう。俺はいくら頑張っても中の下位にしかなれない。クラブでメルアドを交換したのをきっかけに、毎日おはようからおやすみまでメールがくるのも、練習会に通ってくれるのも、俺の冗談で笑ってくれるのも、ダンス教えて下さいなんてすりよってくるのも、単なるお付き合いって奴だ。クリスマスの二日前に意味深なメールで俺をからかってるだけだ。どうせ断られるなら、今デートに誘ってもいいんじゃないですか?勇気振り絞っちゃってもいいんじゃないですか?なんて自分に言い訳しながら、白々しく「クリスマス暇なの?(笑) じゃ飯でも行く?」なんてメールを送信してしまった。なんだ、(笑)って。お前も予定なんか皆無だっただろうが。普通にバイトして寝るだけだったくせに。さっきの余裕と言い訳どこにいったんだ。声にならない声を出しながら、頭を抱えて転げ回っていたら、携帯が震えた。

「彼氏と別れちゃったの相談したじゃないですかー(笑)24バイトで、25暇なんですー。買い物付き合ってください」

俺は無言で拳を握りしめた。

うわついたこころとからだ

うわついたこころとからだ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-15

CC BY-NC
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CC BY-NC
  1. 彼女の章
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