不定形の愛
一つ限りの感情を表す笑顔よりも、ひと目で無理をしていると判る、少なくない恐怖を含んでいるような、生と死のあわいを揺蕩っているような、そんな笑顔に惹かれてしまった。膚は蒼褪め、呼吸は浅く、視線は宙を彷徨い、この世に在らざるものを捉えている。一掬の泪が頬を伝い、頸を伝い、胸に届き、心臓の最奥に届き、ゆっくりと浸透する。眸は微光を放ち、天を裂き、新たなものを捉える、捉え続ける。生命のないものを愛することが出来るのは、いや、生命のないものに生命を、生を見いだすことが出来るのは、幸せなことね。女は声に出さずにそう呟き、眸をとじる。瞼の裏に焼き付いて離れない不定形の愛が、彼女を看取っている。
不定形の愛