肝試し。(ホラー)


  俺たちは真夜中、地元で有名な心霊スポットに、肝試しにきていた。

 そこは山奥にある大きな寺で、その横に大きな墓地があった。俺たちは五人は、寺の前で、隣の墓地をひとりずつ一周してくることにした。



 じゃんけんをして順番を決めた。俺は四番目だった。



 一番目になったAがちょっとびびりながらも半笑いで、歩いて行った。

 墓地とはいえ広く、真っ暗なせいもあって、少し歩いていくと、Aの姿は暗闇に消えていった。残された俺たちも若干怖がりながらも、雑談しながらそれを待っていた。


 広い墓地とはいえ、せいぜい十分もあれば帰って来れるはずだ。

 だが、Aが行ってから二十分経っても、Aが戻ってくる気配がなかった。



「なんだよあいつ、びびって帰っちまったんじゃねーの」



 俺たちは笑い、二番目であるBがAを待たずに行くことになった。

 だがそれからしばらく待っていても、AもBも帰ってこなかった。さすがに残った俺たちは顔を見合わせた。



「おかしいよな、何で戻ってこねえんだろ……」



 一番びびりであるDは、青ざめた顔をしている。



「ったく、ふざけてるんだろ、あいつら。しょうがねえな」



 Cは、二人が俺たちをびびらそうと思ってわざと戻っていないのだと言い張り、探しに行った。

 そしてCも、それきり戻ってこなかった。


 Dと俺はすっかり黙り込んでしまった。

 Dが俯きながら言った。



「なぁ、帰ろうぜ……。ここ、やばいよ」

「何言ってんだよ。あいつらを置いていけるわけないだろ」



 言いながらも、俺は自分の声が頼りないことに気づいていた。

 もうAが出発して、一時間は経つだろうか。


「嫌な予感がするんだよ。向こうに行っちゃいけない気がするんだ。行ったら、もう二度と戻れない。そんな気がする……」


 Dは三人が消えていった墓地を見つめ、声を低くしていった。

 確かにそっちを見ると、暗闇が押し迫ってくるような圧迫感があった。

 だが、俺は信じたくなかった。探しに行くと言う俺を、Dは必死に止めた。



「駄目だ! 行くな!」



 しきりに帰ろう、帰ろう、と言い張るDを振り切り、俺は三人を探す為に、墓地の中へと入っていった。



 

 すると、十分ぐらい歩いていくと、墓地が終わり、ひらけた場所に、三人とも立っていた。

 なんだ、やっぱりふざけてたんじゃねえか。

 俺はほっとすると同時に、怒りが湧いてきて、文句を言ってやろうとした。

 すると、三人は俺を見た途端、わっと俺に近寄ってきた。



「おい、大丈夫だったのかっ?」

「は? 何がだよ……」

「何って、お前らがいつまでも戻ってこねえから、俺たち心配して……」



 俺は周りを見渡して、はっとした。

 確かに真っ直ぐに、しばらく歩いてきたはずだった。



 だがそこは俺たちが初めに肝試しをしようと話した寺の前で、さっきまで俺がいたはずの場所だったのだ。




 よくよく聞いてみると、じゃんけんで負け、一番初めに墓地に入っていったのはDだったという。

 しかしDがいくら待っても戻ってこず、二番目の俺が探しに行くことになったが、二人とも帰ってこない。三人はどうしよう、探しに行こうかと相談していたところだったらしい。



 俺は三人とすぐに来た道を戻り、墓地を探したが、いくら探してもDは見つからなかった。



 俺は今になっても、俺を必死に引き止めていたDの顔が浮かぶことがある。

 Dはあのとき「帰ろう」と、俺たちが来た山道に引っ張っていこうとしたが、本当はそっちは墓地の奥の方だった。



 きっとあの墓地に一番に入ってしまったDは、何かに連れていかれたのだろう。

 そして人一倍臆病だったDは、一人では怖いから、どうにかして俺を騙し、一緒に連れて行こうとしたのだろう……。

肝試し。(ホラー)

肝試し。(ホラー)

昔に書いたホラーっぽい短編です。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-04-09

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