Your name sounds like

漢字二文字。ひらがなでも二文字。
どこにでもある普通の名前だ。

小学校の時は同じクラスに同性同名が三人いた。
中学校からは、苗字があだ名になって名前で呼ぶのは親位になった。
高校生の時は、仲の良いグループで名前で呼び合う事が親しさの証になった。
そして大学生になり、初めて出来た恋人に呼ばれる名前は、私の人生で一番輝いていて、一番尊い物になった。
これは私たち二人の関係に初々しさがなくなった今でも、私たちの間で生きている。
呼ばれる回数は少なくなったけれど、彼の声で呼ばれると嬉しい事に代わりはない。
喧嘩の途中だって、セックスの最中だって、私の名前は彼の声によって特別になる。
日本中に何万人といるであろう同名の中で、私であると一番感じさせてくれるのは彼の声なのだ。
その一方で、彼の名前は世界に数少ないであろう珍しい名前だ。
珍しさ故、誰にでもすぐ覚えられる。名前から話も広がる。
彼の性格もあいまって、彼の生活圏で彼の名前をいえば誰のことかすぐ分かってしまうのだ。
彼の名前は誰にとっても特別で、珍しく、人を惹きつける。
それでもいいのだ。私は彼の名前をたくさん呼ぶ。
私と同じ様に、私に呼ばれるのが特別になってもらえないかな、なんて思ったりしながら。

「じゃあね、おやすみ」
久しぶりに彼からかかってきた電話を切って、画面に出ていた名前が消えるのを見届けた。
遠距離恋愛中の私たちは、夜の電話で互いの近況報告をする。
最近は互いに仕事が忙しくて、すれ違う事が多かった。
そんな中でも、SNSで彼の状況を知る事がある。
幸か不幸か、誰かが撮った写真に彼が写っていれば、私が知らない誰かの写真でも私のページにお知らせが届き、彼の姿が見られるのだ。
誰かに対して彼がつけたコメントさえ、見ることが出来てしまう。
もちろん、私の行動も向こうに見えている。
遠距離恋愛の浮気予防、といったところだろうか。
忙しくなると連絡を忘れがちな彼を例えネット上であっても感じられるのは安心する。
私は今日のランチの写真をアップしようとSNSを開いた。
知り合いから知らない人まで、沢山の人の近況。
はたまたお気に入りのショップの書き込み。
オンラインゲームの広告。
共有された美しい写真、著名人の素晴らしい言葉。
午前中に見た後、更新されたページをざっと見返すと、彼の名前が出てきた。
一ヶ月前の誕生日のお祝いメッセージに、今更返信をしたらしい。
私もコメントしたはず。何て返してくれただろうかとページを開いた。
お祝いメッセージの最後に一人一人への返事が書かれている。
一つ一つ流し読みしながら、私宛を探す。
下の方にあった私の名前を見つけて返事を読むと、どうも内容がかみ合わない。
違和感を覚えつつ、ページをスクロールすれば、もう一つ私の名前が出てきた。
よく読み返せば、私と同名の職場の女の子が先にコメントをしていた。
どちらも同じ名前。
どちらも誕生日を祝うおめでとうの文字。
どちらにも返されるありがとうの言葉。

彼は彼女のコメントをどう思ったのだろう。
彼は私のコメントをどう受け取っただろう。
プロフィール写真が違うので、間違えはしないだろうが。
並ぶ二つの名前から私の名前に特別な思いをもってくれただろうか。
私のコメントに、笑みをこぼしてくれただろうか。

誰からも特別な彼の、特別な彼女になりたい。
そんな想いは、不特定多数がそれぞれの生活圏に入り乱れるSNSの中で不安げに揺れている。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-15

CC BY-NC
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