サービス
よく行く定食屋で頼んでもいないコーヒーが出てきて、「サービスです」と言われたときは嬉しい。たまに行くファミリーレストランの店員の笑顔が、マニュアル通りのサービスだと知ったときは少し寂しい。テニスをやっていて、スパーンとサービスエースを決められたときはかなり悔しい。世の中には様々なサービスがあり、色々な意味のサービスが存在する。
サービスとは、客をもてなすこと。無料の奉仕・案内・世話。値引きをすること。バレーボール・テニス・卓球で相手が打ち返すことのできないサーブのこと(サービスエース)。身近なところから、旅先、スポーツ、テレビの世界にまであふれているサービス。私たちの生活は何らかのサービスとともに成り立っている。
介護サービスという仕事がある。お年寄りや体の不自由な方をもてなし、お世話をする仕事。それをなるべく安い料金で。この仕事にはサービスという言葉のあらゆる意味が含まれている。
実際に介護サービスの仕事に就く人は、誰かのお役に立ちたい、お世話をしたいというサービス精神の旺盛な方が多いようだ。笑っていられないような現場でも微笑みを絶やさない、サービスではない自然な笑顔がお年寄りや体の不自由な方を動かす。そのご家族の心までも。
以前、取材をさせてもらった介護士の方からこんな話を聞いたことがある。
老人ホームには「ターミナルケア」というものがあるという。要するに、最後の最後までホームで見届ける介護サービスのこと。もはやサービスという言葉は似合わない。その介護士の方は日頃の業務態度を買われて、あるお年寄りからターミナルケアを指名された。ご家族は長年の介護で疲れがたまっていたようだ。
自宅で生活しているように、それ以上に、充実した毎日を送ってもらいたい。介護への想いは、サービスというよりは使命感に近いものだったらしい。窓を開けて空を仰ぎ、外の空気を部屋いっぱいに入れる。季節の花を飾る。話したいときは話し相手になり、そっとしておいて欲しいときは黙って側にいる。とにかく笑顔を絶やさずに、お年寄りとご家族に接していた。
数年後、そのお年寄りはこの世を去った。満面の笑みを浮かべて。介護士の方はご家族から感謝の気持ちとともにこんな言葉をもらったという。
「あなたの笑顔に私たちも救われたのよ」まさに渾身のサービスエースが決まっていた。
(了)
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