空回り

空回り

 「ごめんなさい」小雨の降る中、広い公園で二つの傘の間に彼女の声が聞こえてきた。
今日、僕は彼女に告白した。彼女は申し訳なさそうな顔をして、俯き加減で頭を下げると後ろを向き、ゆっくりと僕から離れて行った。そんな、彼女の後姿を見えなくなるまで、僕は呆然と見つめていた。

僕はこの広い公園で一人になった。聞こえるのは道路を走る自動車の音、街の雑音、そして、パラパラと降る小雨の音だった。
「これで、何回目だろう」出会い系サイト、街コンなどを25歳から始めて、いろんな女性と出会ってきたけれど、上手くいったことは無かった。

何度か食事をしたり、遊びに出かけたりを繰り返し、告白するといつも断られ、原因はいつも聞けないまま終わる。
僕には「楽しい」ということがわからない。
落ち着いた気持になったり、悲しくなったり、怒ったり、喜んだりすることは当然ある。
だが「楽しい」だけが僕にはわからない。

今までいろんな人と出会ったけれど、例外なくどの女性もつまらなそうにしていた。
そう、僕には恋愛がわからない。今回も確かに相手のことは好きと思ったから告白した。
しかし、同じようなことを何度繰り返しても結果はいつも同じだった。

明らかに世間一般の人達と僕の興味を示すものがずれているのは明白だった。
無理に合わせて話すこともあったが、結局は話が長く続かず、うまくはいかなかった。

そんなくだらない思考を巡らせて、頭の靄を晴らすために僕は小雨の降る中、傘をたたみ、沸騰しきった頭を雨で冷やした。
家に帰りつくとシャワーを浴び、一杯のコーヒーを淹れた。
気を紛らわすために濃く淹れたつもりだったが、ショックのせいかあまり苦くは感じなかった。

パソコンを開き、なんとなくまた出会い系サイトを眺めているとまた、妙な思考が頭をめぐる。

何のために彼女を作ろうとしている?
何のためにパートナーが必要なのか?
今がそんなに寂しく、不自由なのか?

思考の最後に辿り着いたのはただ、なんとなくの自分の寂しさの穴埋めを探しているだけだったことに気がついたことだった。
僕は出会い系サイトの退会ボタンを押し、出会いを探すのを辞めた。

「目の前のことを頑張ろう」苦めに淹れた残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「にがっ!」今度はしっかりと苦く感じた。

あれから、10年が経ち、今は一人の女性と結婚した。
不思議なものだ求めていたときは何一つ上手くいかなかったというのに、自分の人生から逃げるのを辞めてからは色んな人に慕われるようになった。
今も「楽しい」とは何かはわかってはいないが、少なくとも彼女と過ごす時間は落ち着いていられる。

「コーヒー飲む?」と彼女に聞くと「薄めでね」と穏やかにほほ笑む姿を見ると寂しかった心の穴がようやく埋まった気がした。

空回り

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-29

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