ある生徒指導室の記録

暴力表現注意

   反せい文 三年A組 大入叶

ぼくが全ぶ悪かったです。あの人たちを人間だとかんちがいしてしまっていたぼくの思いこみが全て悪いです。
あのひとたちは犬ちく生です。人間の言葉が理かいできないのです。ひとにひどいことを言ったり、強くたたいたりしたらこのひとはどんなことを感じるのかな、とか、そういうことが想ぞうできないのです。だから、へいきでひとをばかにしたり、先生たちから見えないところでなぐったりができるんです。
多田先生はぼくにぼう力はいけないと言いました。だけど、からだのぼう力がだめでことばのぼう力がいいのはなんでですか。ぼくにはちがいがわかりません。たんにんの多田先生も体いくの山田先生も、ぼくが「ていのう、死ね」とか言われているところを見ていました。なんでそれには注いしなかったんですか。ぼくは反せい文を書いていて、あのひとたちが反せい文を書いていないのは何のちがいがあるからですか。
でも、犬ちく生の言葉をまじめにきいて、それに反のうしてなぐってしまったぼくが全ぶ悪いです。

ぼくはこれまで二年間ことばのぼう力をふるわれてきましたが、今日でその分を二人にお返しできたと思っています。タカシくんはかお中をはらして、まるでアンパンマンみたいでした。ヒロキくんははなからたく山ちを出していました。ちで水たまりができました。
みんなのいるまえでむりやり服をぬがされたこともあります。うしろからおさえつけられて、ズボンとパンツをとられました。そのときも山田先生がたまたまとおりがかったけど、わらいながらやめろよって言うだけでした。
ごきぶりの足を食べさせられたこともあります。そのときぼくはきゅう食を全ぶもどしてしまいました。

ぼくも、ぼう力はいけないと思います。
ぼくの家は福田さんとなが田さんのおうちにはさまれています。
福田さんはチワワをかっています。名まえはジョーくんです。福田さんはときどき、ジョーくんをたたきます。ジョーくんがなぐられているのは見ていてかわいそうだと思います。
でも、福田さんがいらいらする気もちもわかります。ジョーくんは一日じゅうとても大きい声でほえていて、となりの家のぼくのべん強べやまできこえてくるくらいずっとなきつづけているからです。ぼくもいやだと思うことがあります。ジョーくんはたたかれるとかなしそうに泣くので、ぼう力はいけないことです。
なが田さんはドーベルマンをかっています。名まえはフレッドくんです。フレッドくんはかしこくて、なが田さんの言うことをちゃんとききます。まてと言ったらまてができるし、とってもびっくりしたときやしらない人が近くにきたときしかほえないし、おりこうです。

だから、犬ちく生といっても、ジョーくんはそれでフレッドくんはちがいます。フレッドくんは犬だけど、犬ちく生ではないです。フレッドくんは人のことばがわかります。ジョーくんは人のことばがわかりません。でも、ジョーくんが犬ちく生になっちゃったのは、福田さんのおうちの人にもげんいんがあると思います。
「小さい犬をかう人たちは、かわいいかわいいってするためだけにかって、しつけをちゃんとしないことがおおい。大きい犬をかう人たちは、大きい犬が人をかんだりしたら大へんなことになるのがわかるから、しつけをちゃんとする」とお父さんが言っていました。だから、福田さんがしつけをちゃんとしていれば、ジョーくんは犬ちく生にはならなかったんじゃないかとぼくは思います。
タカシくんとヒロキくんは犬ちく生のままだと思います。ぼくは何回も「いやだ」「やめて」と言いました。人のことばが通じないならジョーくんといっしょです。ぼくはジョーくんのかなしそうな泣き声を思い出して、本当はやりたくなかったけど、いすで二人をなぐりました。

ぼくが全ぶ悪かったです。二人をことばの通じる人間だとずっとかんちがいしていた、ぼくが全ぶ悪いです。

ある生徒指導室の記録

ある生徒指導室の記録

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-26

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