流れ星

今日もこの夜はまた馬鹿らしい程に綺麗だ。誰かの流れ星がまた1つ、また1つと流れていく。誰かの些細な願いを纏って。

この私がいる現代では、非科学的だが、願うと空に星が流れる。流れる星に願うのではない。祈れば願いが流れる星となって現れる。その人だけの色を纏って。

私の母親曰く「お母さんが20歳くらいの時に、突然有り得ないほど星が降り出したの。それまでほとんどなかったのに。始めは見とれるほど綺麗だったけど、もう見飽きちゃった」らしい。

突然毎日のように降り注ぐ流星群は、人の願いが、その人の色を持って流星になっていることだけ、今は分かっている。

自分の色を知るためには、祈ればいい。目を閉じて、叶えたいと願えば、燃える篝火のように目蓋の裏に映り、色が分かる。

その色を人に伝えることは出来るけれど、伝えたところで、夜その願いを知れる訳もない。自分の色を人には話さない。これがこの世界の暗黙の了解となっている。

私は幼い頃からこの夜空が好きだった。

誰かの流星を、その願いを考えるのが楽しくて。でも、一番の理由は単純にこの綺麗な流星群を見ることが、楽しかったからだ。

傲慢だが、私は幸せな人生を送ってこれたと思う。家族は両親と4つ上の姉。どこにでもある家庭であった。姉はなんでも欲しがった。両親はそんな姉を甘やかすことなく、厳しくした。その度に姉が癇癪を起こしていたことをよく覚えている。

そんな姉が反面教師となり、私はあまり欲のない子供だった。それでも充実していると思えた。だから、この夜空も見れるだけで十分で、自分もその中に加わろうとはしなかった。当然、自分の色は知らない。

学生の頃はよかった。小中高、どこでも、毎日、勉強していれば、友人たちと楽しく過ごせるから。

進路もそこまで深く考えたことは無い。将来を考えるよりも、このくだらない楽しい日々が続けばいいと思ったから。

だから大学も、正直に言うと、どこでも良かった。友人たちと別れることになるならば、どこに行っても変わらない。

そうして、日々が充実することだけを考えてきて、将来の夢などない私は大学3年になり、本格的に就職の話が出てくる時期になった。当然、将来を考えなかった私に、決められる道はない。

ずっと逃げていた。将来には不安しかない。これまで楽しんだ代償が、降り注ぐ。胸を張って人に自慢できる経験もない。「私には何も出来ない」そう心の奥底に根付いた言葉が、責め立ててくる。

この綺麗な誰かが願った流星達を見ることも、いつの間にか見るのが嫌になっていた。醜くも「…私はこんなに追い詰められているのに」などと思ってしまう日もあった。

追い詰められた先で、もうどうにも出来なくなった。
この先、生きていく理由が分からない。

こんな不甲斐ない私は、
「いっそのこと死んでしまおう」
そう思って私はベランダに身を乗り出す。

夜、騒がしい星空とは裏腹に、沈みかえった街を見下ろしながら、足元を見る。
途端に足がすくむ。恐怖に苛まれる。

「…こんなことで?」

こんな恐怖ごときで、私の決意は揺らいでしまうのか。

身を投げ出したい衝動とその恐怖、絶望に、訳がわかなくなって、その場にうずくまる。

いなくなりたい、でも怖い。生きたくない。

涙が溢れて止まらない。

ぎゅっと目を閉じる。

それなのに、目を閉じたはずなのに、眩しい。白い光が目蓋の裏に見える。…ああそうか、これが私の色なのか。

顔を上げると、さっきまで騒がしいと思えた星空は、いつか見たように綺麗だった。

自分の色が雨のように降り注ぐ。誰かの物と交じりながら。この一瞬を切り取り撮ってみたい。

欲が、まだやりたいことが残っていた。
そうして思ったこと、この先、私がまだ心を動かされるような出来事がある。それは困難の先にあって、きっと何度も消えたくなる。それでも、この星空があるなら大丈夫な気がした。

流れ星

流れ星

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-26

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