この世界の終焉と黎明

 「博士、ついに出来上がりました。え、本当ですって。疑うんだったらはやく見に来てくださいよ。」

 全てのものが真っ白で、この世のものとは思えないほど面白みのないこの空間の中で、唯一心が惹きつけられるのは机上の惑星の模型だろう。博士が疑ったのも無理はない。だって、研究者たちはこの宇宙の一部をミニチュアサイズでつくることに成功したと主張していたのだから。

 博士は疑いながらも、物語の序盤に登場した研究者に連れられて机に向かって行った。確かに、博士はこの研究テーマを許可し、彼らはだいぶ前からこの研究をしていた。しかしながら、研究者たちの熱意に負け許可しただけであって、研究者から博士はいつも
「あともう少しで成功しそうです!」
と毎回同じ言葉を聞かされていたので、まさか本当に成功する日が来るとは、思ってもみなかったのである。そしてこれこそが、この世界の終焉に向かう第一歩だということは、まだ誰も知らなかった。

 博士と研究者たちは机を囲み、惑星をじっと見つめている。しばらくすると、
「あっ」
と研究者の一人が声を上げた。
「地球に恐竜みたいなのが出現しました。」

 これは、失敬。ここで皆さんに補足説明を致しますと、先程陳述しました『この宇宙の一部』とは、太陽系のことでございます。勿論、この中には地球も含まれておりますので、この地球の黎明は研究者たちの手によってつくられたものであります。

 また、暫く観察してみると、人間っぽいのが誕生した。恐竜は皆さんのご想像通り滅びてしまったのだが、訳は伏せておく。

 またまた、暫く観察すると各大陸の人間が、それぞれの文明を築いていった。博士と研究者たちは、それは実に興味深そうに観察していた。

 小さな地球の上で、人類は戦争を始め、侵略し、侵略されたり、それぞれの人種によって国のようなものが出来上がっていったり、まさに私たちが学校で習ってきたような地球と人類の歴史が目の前で繰り広げられていた。

 観察し始めて、ここまでたったの数時間のことである。一部の地域で、ある程度激しい争いが収まり、平和と呼ばれるものを目指して来た時、みんなの視線は小さな地球のある建物に注がれていた。

 特別な拡大鏡で、覗いてみると建物の中は数人、人が集まっていて、一点に視線が注がれていた。その建物は白一色で統一された味気ない内装である。博士と研究者たちは、はっと息を呑んだ。はっと息を呑むぐらいの表現では足りないかもしれない。その時やっとみんなは、この世界の禁忌に触れてしまったのだと悟った。しかし、これは必然と起こるべきことだったのかもしれない。

 ある研究者がふと、上を見上げると、大きな誰かに覗き込まれているような気がした。

この世界の終焉と黎明

この世界の終焉と黎明

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-03-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted