バツイチ子持ち彼氏
それは…
仕事に向かう道のり、突然子供が飛び出しそうになっているのを知って、慌てて抱きしめて止めた。
「信号は、ちゃんと守らないと危ないよ!」
「お姉さん、離してくれないと遅刻だよ〜!」
「あっ!ごめん!車にはきをつけて…」
抱きしめた手を緩めると、少年はリュックを左右に揺らして、かけ去った。
私は、お節介おばちゃん肌のアラサー女子。
こんなお節介は、日常なのだけど…
最近は、子供に防犯ブザーを鳴らされて警察沙汰になりかねない。
なので、やはり見過ごす事も多くなってしまった。
地域の子供達との距離を、縮める事も難しい。
私は、高見由奈。
アラサーの29歳独身。
自己紹介したところで、彼が出来るわけではないし…
今は、仕事1番の仕事女子です。
上司と少年
ある日の朝、通勤途中で見かけた少年…
先日の飛び出し少年!
今日は、少し余裕あるのかな、飛び出しも心配しなくて良さそう。
ゆっくり歩いている。
「おはよう!」
少年の肩をポンと叩いてみた。
「あっ!この前のお姉さん。びっくりして、ブザー鳴らすところだったよ!」
「勘弁してください。」
「今日は、ゆっくりでいいの?」
「うん…まぁ」
「そうか!元気出して行っておいで」
「うん」
(なんだか、話したい事が話せてないのかな?ちょっと上の空な感じだったな)
気にしても居られない。
電車の時間だ。ちょっと走るかな?
時間に間に合う様に走ったけれど、ヒールを履いていた事を忘れていた。
排水溝に足を取られて、つまずいてしまった。
(あ〜!遅刻確定だし、靴買わなきゃだし。)
1人落ち込んでいたところに、通りかかった男性が声をかけてくれた。
(新手のナンパか?)
男性は、鞄から接着剤を取り出して、応急処置をして、靴を直してくれた。
(鞄から取り出した接着剤って、うちの会社の…)
と、顔を上げて驚いた!
「葛城さん!」
「あ〜。高見さんだったんだ。ははは!君がこんなドジだなんて知らなかったよ…」
「ありがとうございます。」
(ドジは、余計だよな!これでも嫁入り前の女子である。)
接点
葛城さんに助けられて、遅刻は何とか免れたけれど…
(ドジって…)
葛城さんの言葉が頭の中をこだまする。
(まぁ、仕方ないよね。会社でも出世頭の上司である。女性社員からの信頼もあつくて、人気も凄い!私など、ドジなお荷物かもな。)
葛城部長は、仕事が早い。しかも正確に終わらせてしまう。
だから、うちの部署は定時退勤を旨としている。
あくまで、部長方針であるが…
(それにしても、葛城さんと最寄り駅が同じなんて、知らなかった。)
「高見さん。終わりそう?」
(部長の低い声、ダンディなスタイル…ずるいよな!天はにぶつを与えすぎてない?)
「はい。何とか…」
答えながら、心で思うのだ。
「じゃあ、一緒に帰ろう。」
「えっ!」
「靴買うんだよね!付き合うよ…。また取れちゃうといけないでしょ。」
(あ〜。そうですね。ドジ過ぎてほっとけないタイプなんだ、部長。)
「ありがとうございます。」
女子の買い物に付き合うなんて、どんだけイケメンなんだよ!
帰宅
帰り道に、パンプスを買って履き替えた。
「お似合いだね!」
(部長は、女子の心に入り込むの上手すぎ!)
「ありがとうございます。」
きっと笑顔は、引きつっていたに違いない。
「ついでだから、夕飯の買い物してもいいかな?」
「部長が、夕飯の買い物ですか?」
「可笑しい?」
「いえ、そういう意味では無くて、奥様とか彼女さんとか…」
「居ないよ!離婚したんだ。7年位になるかな?」
「あっ!すみませんでした。変な事言って。」
「構わんよ。」
部長は、少し寂しげな横顔を見せた。
「私は、ここで失礼します。」
「えっ!食べて行かないの?」
「部長、流石にそこまで図々しくなれませんって…」
「そう?残念だな。今日は特製ハンバーグにするのに。」
そんな会話に、割って入ってきた1人の少年。
「あ〜!あの時のおばちゃん!」
「あれ?君なんでここに?」
「ここ、俺ん家!」
「仁、今日はハンバーグだよ。お客さんにも食べて貰うから、手を洗って手伝えよ!」
「??」
私の頭の中が、はてなで溢れていた…
えーと、さっき部長は奥様とは離婚したと言ったね。それから、交差点の少年はココは俺ん家って…
「ん?部長の息子さん?」
(えっ!息子さん?7年も前は、小さかったよね。)
なんだか、あれこれと忙しく頭のなかで、考えが回った。
(部長、凄いな。)
「私も何かお手伝いしましょうか?」
「火を使うから、危ないよ!座ってて…」
(息子さんは、大丈夫で私は危ないの?)
距離感
部長の作るハンバーグは、とても美味しかった。
作業手順も、慣れた物だった。
息子さんが、私の事をおばちゃんと呼んだ事を思い出して、部長が息子さんに言い聞かせていた。
「お客さんは、お姉さんだよ。」
「おばちゃんでも、いいよ!」
「部長、ご馳走様でした。洗い物をしたら、帰りますね。」
「大丈夫だよ。洗い物は仁の係なんだ。その仕事を取られてしまうと、仁のお小遣いが減るシステムでね。」
「…」
「はい。では、このまま失礼します。」
「明日は、休みだけど予定はある?」
「いえ、別に何も…」
「明日、仁と遊園地に行くんだ。一緒にどう?2人も知り合いみたいだし。」
「私ですか?はい。」
「じゃあ、駅に9時に!」
「はい。」
断る理由も無いし。
今日ご馳走になったから、お返しに息子さんと一緒ならいいかな?
お弁当
明日は、遊園地!
遊園地と言えば、お弁当!
帰りに買い物を済ませて、翌日に備えた。
待ち合わせの9時、仁君がリュックを背負って駆けてきた。
「おばちゃん、お待たせ。父さん支度遅いんだもん!」
「おい!バラすなよ!」
「部長、おはようございます。」
「休みなんだから、部長は辞めない?」
「いえ、部長は部長ですから。」
「そう?」
「父さん!行く前からへこんでるし!」
「仁!」
電車に乗ってからは、仁君のテンションが上がった。
「仁は、小さい頃から電車が好きなんだよ。休みの日に一日中電車を乗り継いだ事もあったな。」
何か懐かしげに、部長は語った。
朝から、頑張ったお弁当を取り出したが…
(私の負け!)
部長の彩り豊かなお弁当は、とても男性が作った手料理とは思えない。
味も、工夫されていて美味しい!
(敗北感しかない。)
テンションが下がったところで、仁君が私のお弁当を食べ始める。
「おばちゃんのも、美味しいよ!」
(可愛い〜〜!なんて優しい子なんだろう。)
ハグしたい位に可愛い…
子は鎹
遊園地以降、仁君との距離が縮まり、同時に部長との距離感も少しづつ縮まりはじめた。
部長の部屋にお邪魔して、仁君と遊んでいる間に、部長がちゃちゃっと料理する。なんて事も稀では無くなってきた。
「仁が、君が来てくれた日はテンション高くてなかなか寝てくれないんだ。」
なんて、部長は上手に私と仁君を近ずけて行った。
私も、子供は好きなので、仁君と暴れて遊ぶのを楽しんでいた。
「明日、予定あるかな?」
「部長、明日は休みじゃ無いですよ。」
「帰りに食事でもどうかと思って!」
「仁君は?」
「実家の親が来てるから、大丈夫だよ。」
(部長が私と食事なんて、改まってなんだろう?彼女さん出来たかな?)
「君と二人で、話がしたくて…」
「はい。」
「じゃあ、明日の仕事終わりに…」
「はい。」
(なんだろう?この展開?)
約束したので、仕事終わりの女子会を断って、一応部長との食事に合わせた。
「ここですか?有名店ですよ。いいんですか?」
「この為に予約したんだよ。」
コース料理をいただいて、部長が話はじめた。
「仁と仲良くしてくれて、ありがとう。
そんな君だから、ちゃんとお付き合いしたいと思いました。バツイチ子持ちは、ダメですか?」
バツイチ子持ち彼氏