夜のえびピラフ
月からきた新人類ども。静かに、海をみている。
凪いでいる。
きまぐれに、店をあける、叔父が、コーヒーを淹れながら苦笑いを浮かべる。彼らの口に、コーヒーはあわないらしい、と。叔父と仲のいい、安楽さんが、こんなに美味いのに、と、心の底から残念そうに呟き、ぼくは、ピラフをばくばくと食べている。二十二時。
そういえば、安楽さんの撮った写真を、さいきん、街中で見かけた。ファッションビルの看板で。
外国人の女のひとがモデルで、でも、あれは、例の、月からきた新人類のひとりなのだと云う。女のひとではなくて、でも、男のひとでもないらしい。うつくしい被写体には人種も、性別もかんけいないのだと、まじめな表情で頷きながら、煙草に火を点ける安楽さんは、叔父の淹れるコーヒーが世界でいちばん美味しいコーヒーなのだと、これまた恥ずかしげもなく熱心に褒めるから、叔父の方が照れてしまって、なんだか、このふたりは、いいなぁと思う。
海辺で、新人類たちは飽きもせず、海をみていて、でも、ほんとうは、もしかしたら、海の上の月をみているのかもしれないと考える。
海面にうつり、わずかの波にぶれる月。
すなおなきもちを、平然と言葉にできる、安楽さんは、きっと、だれかに告白をするときも、真顔で、愛してる、と言うのかもしれない。
ピラフの皿の横に、叔父が、プリン・ア・ラ・モードをおく。安楽さんが、うまそうだなぁと、ほんとうに羨ましそうな声を出し、微笑む。流れている音楽が、どこの国の、なんていうジャンルの音楽か、よくわからないけれど、悪くないなと思いながら、ぼくは、ピラフのえびだけをスプーンですくい、ぱくりと食べた。
夜のえびピラフ