春愁
寂寞。深夜の、シャッターに閉ざされた店舗がつらなる、商店街の、ちかちか点滅している、蛍光灯。蒼白。きみのよこがお。ひとつずつ、欠落してゆく、星の一部。こわいくらいの、きみの、あい。
もうそろそろ、春です。
春を通り越して、夏の予感もします。
さみしいな、と思いながら飲む、コーヒーの、底に溶け切っていなくて残った、砂糖のじゃりじゃり感。あそこのケーキやさんのザッハトルテがおいしいのだと、きみが云う。たばこに火をつけて。そういえば、幼い頃、商店街のはじまりにある写真やさんで、家族写真を撮ったことがある。まだ、おとうさんが、おとうさんで、おかあさんも、おかあさんだった。ぼくは、いまも、ぼくであるけれど、となりには、きみがいて、街はすこしずつ、腐蝕が進んでいて、生命が、どんどんすみっこへ追いやられていて、でも、星はまるいから、宇宙に落っこちることはないと、冗談めかしていう、テレビのなかのひとに、ときどき、嫌気がさす。
ぼくらが座っている、商店街の、だいたい中央に設置されたベンチの天井はステンドグラスの、花。
春愁