匂い

一話一話の長さが不規則になると思いますがどうかよろしくおねがいします

ある日バスボムをもらった


ある日バスボムをもらった。それは透明なケースに入っていて、てんとう虫のデザインをしたバスボムのしたにはシュレッダーでかけられた紙が敷き詰められていた。バスボム本体にも舗装がされているのにもかかわらず、ケース越しにその独特な香水のような匂いを漂わせていた。鼻で息をしてみる。深く息を吸い、匂いを確かめた。その匂いがは鼻腔の深く奥に入ってきて脳まで達した気がした。途端体全体の行動が止まる。思考も完全に止まった。外とのコンタクトを完全に強制遮断された気持ちになった。どこまでも深く落ちていく感覚に襲われ、頭には走馬灯のように思い出が流れ始めた。どこかで嗅いだことがあった匂いだった。ただの匂いではない。懐かしい何かを感じた。思い出そうとするものの、なかなか出てこない。映像とは違って匂いとはなんとも不思議なものだ。ある意味のデジャヴというのか、途端に思い出す。昔の彼女がつけていた香水の匂いだった。それを知ったとき少し哀しくなった。それが決して彼女との思い出が悲しいものだったからではない。もう戻れないときや楽しかったときをふと思い出すと、人は哀しく感じると思う。僕は今日使うはずだったバスボムをそっと机に置いた。とてもじゃないが、それを使って彼女との思い出をお風呂で思い出し鬱になりたくはない。いつか使う時までとっておこう。今日はいつもどおり温かいただの水に浸かってなんともいえない気持ちのままベッドに倒れこんだ。懐かしい匂いとは残酷なものである。嗅いだだけで人をこんなにも考えさせるのだから…
朝、携帯のバイブの音で目が覚めた。前の彼女からのメールだった。彼女の名前は栞(しおり)と言う、なのに脳内では栞ではなく、「バスボム」という名前で認識していた

匂い

匂い

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-14

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